言葉の意味から想像される黄土高原は、実態とはかけ離れたものになります。私は仕事の関係で、1999年4月から00年4月までの13ヶ月間、北京に拠点を置きながら毎月 一週間程度、黄土高原の東南角に近い山西省吉県と言う山村に通い続け、都合60日間 程山歩きをしました。JICAの黄土高原治山技術訓練センターのアフタケアの運営監理を一人で、担当しました。時々専門の技術者や大学の教授が応援に来られ、技術面でバックアップしてくれました。拠点は北京林業大学にありましたが、列車で太原より200km余南方の臨汾まで行き、そこから車で現場に向かうのが体力的には楽なのですが、パートナーの林大の先生方は北京から920kmもあるのに、車で行くのが好きで 止む無く、半分程度は朝6時出発し夜の7時ごろ現地着となりました。太原までは高速道路がありますが、 石家荘までは本格的高速道路で快適ですが、その先の高速道路は 名ばかりで道幅も狭く、頻繁に行き交う石炭輸送のトラックが2台並列運行し、運転手同士がおしゃべりしながらノロノロ運転することが多く難渋しました。太原から南下する道路も一応国道ですが、 相当劣悪で時には工事中でUターンし(手前に案内看板のない時があった)夜の山路を走り、真夜中に現地着と言うこともありました。黄土高原は、私が後年仕事で滞在した 寧夏回族自治区辺りが西北の端に近く、合計60余万平方キロと日本の1.6倍もあるが、広々とした平原はなく、Google Earthで 人工衛星写真を見れば大体分ると思うが、洗濯板の如き情況です。饅頭型、馬の背型、駱駝のコブ型の三つに分類されるとの事ですが、頂上の平坦部は野球場から皇居前広場 程度です。200万年余の間に微粒子の黄土が降り積もり、一方では年に数回の降雨(時には豪雨となる)の繰り返しで、削り取られ深い渓谷が形成されています。住民は 山の傾斜地の僅かな平坦部にも住んでいるが、生活用水は谷底まで天秤棒にバケツを下げるか、トラクターで行き,汲んで来るわけです。谷川の周辺には時には生活に便利と思われる一定規模の平地も見かけましたが、万一豪雨があると流されてしまうので住めないとのことでした。本来50%程度の森林があったそうですが、3-4000年前からの人類文明の発展につれて、伐採され10%程度まで少なくなってしまいました。私の赴任10年前にJICAの治山治水の技術援助に併せ1200Haの植林をしたが、その効果が顕著で、従来水がしたたり落ちる程度だった崖の中腹からの水が、清水となり流れ出る様になっていた。住民と現地政府(村役場)が金を出し合い、100立方メートル程度の貯水槽、送水 ポンプ更に配水管を設置していた。山の上方に3x4km程度の植林をしただけで、10年もすれば落ち葉が保水した水(植樹した部分の下半分は全て直径1m以上の 半環濠として、水の流失を防止している)を密度の高い粘土質の地層をも通過して、絶え間ない清水を供給し始めた訳で、現地住民や関係者は心から感謝していた。一方植林に際して桃、りんご、ナツメ、スモモ、銀杏などを植樹し、経済林としたが収穫出来る様になり、糖度が高く売れ行き好調だといっていた。 黄土高原の土壌は、本来肥沃であり水さえあれば何でもよく育つので、人口10万の吉県で、水窖(スイコウ、Shui jiao)と呼ばれる地下水槽が16,000個も建設されていた。7-9月に数回しか降らない雨水を効果的に保存する為、数キロリットルから 数十キロリットル貯水可能な水槽をコンクリートで、半地下式に作っているわけです。緩やかな傾斜地を利用し、一定面積の土地の周辺に溝と流出防止の土手を作り、一番下が取水口になるように設計、配置している訳で、正に生活の知恵と感心した次第。 冬は暖かく、夏は涼しい洞窟住居であるヤオトン(窯洞、Yaodong)も乾燥地帯である、 現地事情に合致した住居だなと感服した次第。見学した小学校の分校もヤオトンだったが、換気が不十分な様で、少々気になったが!一人っ子政策は全く徹底しておらず、 我々が関係現場を点検する為、歩き回るとあちこちのヤオトンから、子供達がぞろぞろ 顔を出してくるのには驚いた。更に村役場の招待所(かなりひどい旅館だが)周辺には、役場、銀行、郵便局、マーケット等があり、   5-600mの長さの道路の両側に民家も肩を寄せ合っている印象だった。こんなところにもカラオケがあるとのことで、冷やかし半分の気分で、林大の先生方と有る夜出かけたが、あまりの暗さと汚さには閉口した。それでも応対するホステスも居り、聞くと四川省の貧しい農村から出てきたと言う。 平静を装ったが、下には下があるものだと、心中涙が出る思いをした次第です。 「人はどんな環境にあっても生き抜き、より良い生活を求めるものだなあ~」と!
柳沢経歴 http://www.nakatsu-bc.co.jp/komon/komon-2.html
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