1.私が商社マンだった頃、中国の貿易省傘下の貿易公司のあるベテラン担当官は
 雑談時「どうしても我々中国人は緻密でなく、品質面では多分永遠に日本人には追いつけない。然しビジネスセンスは我々の方が上だろう。何と言っても3000年以上の経験があるから」。3000年以上の経験とは何か?知らない方々も多いと思われるので、
 受け売りだが紹介しよう。文字や出土品で確認できる中国最古の王朝が商朝(日本では殷と言うが)であることは、誰でもご存知でしょう。然し周王朝創始者の武王により、 滅ぼされた後どうなったかはあまり知られていない。中国の友人達の解説では商の人々は国の再建を断念し、持ち前の商才で以って各国と商売し豊になる道を選んだとのこと、 従い商人とは本来固有名詞であったが、いつの間にかビジネスマンを意味する普通名詞に変わったのだと言う。
2.30数間、中国向機械・プラント輸出をして来た私は、上記の実例を嫌になるほど経験させられた。貿易公司の方々は世界各国と取引しているので、経験を通じていろんな 値引き要求の名目を見つけ出した。値引名目は英語の略語で表現される。例えば、A/D、B/D、Q/D、I/D、S/D、E/D等であるが、皆さんは幾つ分るでしょうか?/DはDiscount(値引)と直ぐ分るだろうが、問題は何の値引きか?順番に記すと、AはAmount即ち契約金額が大きい時に要求する特別値引き、次が年間に何度も注文があり(協定を結んで実行するのが一般的)、あるレベル以上の契約高なら、その額に応じて0.5%とか1%とかボーナスを出す(キックバックする)方法、特定の品目に注文が集中した場合、製造原価が大幅ダウンするはずとして、数量(Quantity)値引きを要求、Iとは、Initialの事で初取引商品の場合、Sのサンプル取引での値引き要求も類似、Eとは展示会出品物の買上の場合の値引き要求である。加工設備の契約等では、ユーザー研修の為、日本への招聘を契約条件にする(費用売り手負担)のは一般的だが、時には直接関係のない役人や銀行関係者も含めざるを得なかった。
3.大型設備の場合、「貨比三家」と称して、主要メーカーの設備の性能などの比較表を作らせ、更に比較表間の比較もするという“知能犯”もいた。例えば私が 代理しているメーカー品をアメリカのA社品及びドイツのB社品と比較した比較表を出せと要求、同様の要求はアメリカやドイツの業者にも出されていて、三つの比較表を中国側が比較して、 優劣を見極めようとする訳です。
4.逆に日本の地方の中小メーカーの専務さんの商売上手に感嘆したことがあります。
生産設備関係の買付け代表団を日本に招聘し、メーカー工場視察や日本での使用状況を確認(ユーザー工場で見分)した上で商談となったが、難航した。商談には専務さんも参加していたが、価格で折り合わず、その専務さんは突然立ち上がり「本件なかったことにしてもいいよ、但し御社にお世話になって来たから、先方最終指値受けるかどうか、任せるわ」と、言って部屋を出てしまった。来日したバイヤーと挨拶も握手もせずにである。この結果に客先は大変喜んで、「専務さん,怒って帰ってしまいましたね!コスト面相当厳しいこと分った」と言って、我々商社に対してお礼を言う 始末だった。ところが、一ヶ月ほどしたある日、その専務さんから電話あり、今東京に来ている。その節はお世話になり、いい契約が出来た。お礼致したく招宴したいと電話あり、先方要求に応じたが、その席上の台詞に驚嘆、「先方指値は十分受けられたが、易々と受けたのでは、更に値引き要求してくる心配があったので、一芝居した。兎も角、御社にはお世話になった」との談。
柳沢経歴 http://www.nakatsu-bc.co.jp/komon/komon-2.html
Mail add. Knhr-yana-@jcom.home.ne.jp