宅建試験や管理業務主任者試験の本試験の問題作成担当者は、過去に出
題さ
れた試験の問題を参考にして本試験の問題を作成する。同じような問題が
近年
出題されていないか。最近出題されていない分野は何か。近年出題され
た問題
でも、それを応用して出題する。過去に出題されていても、正解の肢で
なけれ
ば、続けて出題しても問題ない。過去に出題されているが、相当昔の問
題だか
ら、同じような問題でも出題してもよい。同じ問題でも重要でありながら、
解率が低ければ続けて出題してもよい等々の事情を考慮して出題している
と思
われる。

 10年以上試験が実施されれば、ほとんど重要な論点は出されている。そんな
に重要な論点があるわけではない。過去の問題を離れて出題することは不可能
であり、過去の問題を離れて出題すべきでない。
 しかし、出題者としては、全く過去の問題と同じ問題を出すわけにはいかない。
事例を変えたり、周辺の問題を入れたり、数字を変えたり、問題文を長く
したり、
一歩進めた問題にしたり、応用問題にしたりしながら、工夫して出題
する。
それで、法律の問題の実力判定は十分にできる。

 ところが、過去に出題された問題にミス問題がある。市販されている問題集に
も、そのミスを修正せずに、そのまま掲載して、それを指摘しないまま、あるい
苦しい弁明をしながら解説している。しかし、それでは、また同じミス問題が
繰り
返されるおそれがある。ここ2~3年は、問題作成機関が正解を発表し、ミ
ス問
題が公になった。しかし、以前の問題はどのように処理されたのか不明であ
る。
同じミス問題を繰り返すことのないようにしていただきたいと思う。

 平成21年度の宅建試験で、宅建業法の分野でミス問題が多発した。この年か
ら宅建業法の試験問題が16問から20問に増えた。そのせいかどうかは知らな
いが。

まず、問31について

【問 31】 宅地建物取引業者Aが自ら売主として、B所有の宅地 (以下この問
において「甲宅地」という。) を、宅地建物取引業者でない買主Cに売却する場
合における次の記述のうち、 宅地建物取引業法の規定によれば、誤っている
もの
の組合せはどれか。

ア Aは、甲宅地の造成工事の完了後であれば、Bから甲宅地を取得する契
 約の
有無にかかわらず、Cとの間で売買契約を締結することができる。
イ Aは、Bから甲宅地を取得する契約が締結されているときであっても、その
 取得する契約に係る代金の一部を支払う前であれば、Cとの間で売買契約を
 締
結することができない。
ウ Aは、甲宅地の売買が宅地建物取引業法第41条第1項に規定する手付
 金等
の保全措置が必要な売買に該当するとき、Cから受け取る手付金につ
 いて当該
保全措置を講じておけば、Cとの間で売買契約を締結することがで
 きる。
1 ア、イ
2 ア、ウ
3 イ、ウ
4 ア、イ、ウ

×ア 誤り。Aは、甲宅地の造成工事の完了後であっても、Bから甲宅地を取
  得する契約(予約も含む)契約を締結していなければ、Cとの間で売買契
  約を締結することができない(宅地建物取引業法33条の2第1号)。
×イ 誤り。Aは、Bから甲宅地を取得する契約(予約も含む)が締結されて
  るときは、Cとの間で売買契約を締結することができる(同法33条の2
第1
  号)。代金支払い等は考慮しない。
 ウについて、一部の問題集の解説は、疑問を持ちながら公式の解答の通り、
以下の理由を付して正しいとしている。宅地・建物の売買が宅地建物取引業
法第41条第1項に規定する手付金等の保全措置が必要な売買(未完成物件
の売買)に該当するとき、買主から受け取る手付金について当該保全措置を
講じておけば、買主との間で売買契約を締結することができる(業法33条の2
第2号)。条文通りだから正しいとして、正解を1としている。
 しかし、33条の2の規定は、自己の所有に属しない宅地又は建物について
売買契約を原則として禁止しているのである。
 1号は、他人物売買において、他人とその物件を取得する契約(予約を含む)
の場合には例外としている。
 そして、2号は、未完成で所有権の成立しない宅地建物については、例外
して手付金等の保全措置を講じていれば、売買できるとしている。
 つまり、他人物売買については、他人との契約が例外であり、未完成物件
所有権の対象とならない物件については、手付金等の保全措置が例外であ
る。
 問題の本文を見ると、「甲宅地」は他人Bの所有となっており、所有権の対象
になっている。ということは、未完成で所有権の対象となっていない
という2号の
問題ではない。
 本文を離れて、肢4を見ると、通常建物については、完成しない間は建物とい
えず、所有権の対象とならないが、土地については、未完成で未だ
所有権の対
象となっていないということはまれである。ただし、山林を宅
地に造成中などの
場合には、未だ宅地になっていないから、「宅地」の所有
権は成立しないという
ことが考えられる。
 しかし、肢4では、「甲宅地の売買が未完成物件の手付金等の保全措置が
要な売買に該当するとき」とあり、あくまでも、本文を受けていて、宅
地としての
所有権は成立している事例としか考えられない。
 本文を離れて、肢4を独立に見て答えれば良いと言う問題ではない。不適切
な問題であり、ウが正しいとは決して言えない。
 出題者は、「自己の所有に属しない」の中に「他人物」と「未完成物」があり、
それぞれに別々の例外があるということを十分認識していないので
はないか
と疑われる。
 次回は、同じ平成21年の問題の問38について説明します。