日本国内では、動きが比較的静穏なアルコール業界も、世界に目を向ければ激しい戦いが進行中である。アルコール業界の世界最大手は、ロンドンに本社をおくディアジオで、2010年の売り上げは160億ドルという巨大企業である。ギネスビール、ジョニーウォーカー、スミルノフウォッカ等の有名ブランドを一手に販売している。もともと、13年前にギネスとグランドメトロポリタンが合併してできた企業で、合併当時は、バーガーキング、ハーゲンダッツ、ピスズベリーといった食品会社も傘下に抱えていた。しかし、選択と集中をすすめ、アルコールビジネスに関係のないビジネスを、すべて売却している。

売却で得た資金で、世界各国の有名ブランドをターゲットにして買収攻勢をかけている。そして、目標とする市場はずばり新興成長市場。現在、新興成長市場からの売上は35%であるが、これを4年から5年で50%にまで上げる予定であるという。現在、インド、中国、ブラジルの中産階級に焦点を合わせ、積極的なマーケティング活動をしている。そして、売り込むブランドは欧米の有名ブランドである。そのためにも、ヘネシーコニャックもラインアップに入れたいところで、LVHMに買収を打診している。

もちろん、現在も最大の市場は米国で、売上の40%を占めている。ヨーロッパでは、停滞する景気の影響を受けて売り上げが伸び悩んでいるが、米国の売り上げは好調で、若者市場の売り上げは堅調に推移している。アイルランドの経済事情を考えると、アイルランドが誇るギネスビールの売り上げが伸び悩むのは当然であるが、創業250年という世界ブランドは、景気が回復すれば間違いなく売り上げも伸びる。市場の動向を考慮したマーケティングが将来の売り上げを左右する。

ディアジオの動きは、これからの企業に大いに参考になる。もう国内市場と海外市場を分けて考える時代ではない。世界を一つの市場と考えて、その市場を細分化することが必要になっている。親が老酒を飲んでいるからといって、子供が老酒を飲まなければいけないという法律はない。所得が上がれば、さらに高級な今までに飲んだことのないアルコールを飲みたいと考えるのが普通の若者の消費行動である。いかに、これからの消費者の動向を考慮して、商品を開拓し投入するかが問われている。そのためにも、どのような企業といえども、資金はますます必要になる。