焼肉店チェーンで、最大手の「牛角」を含め、全国で約1,200店の外食店を経営するレックス・ホールディングスが居酒屋最大手のコロワイドに買収されることになった。焼肉店チェーンという、今までにないコンセプトを確立して、急成長したレックス・ホールディングは、事業拡張のためコンビニエンスストアやスーパーマーケットの経営に乗り出した。新しく進出した二つのビジネスが、上手く行かず、多額の負債を抱え込み、さらに本業も経営不振の状態が続き、結局、他社に買収されることなった。

この事例は、経営者が分からないビジネスには、手を出してはいけないという教訓を与えている。外食店チェーンの経営と、コンビニエンスストアの経営、スーパーマーケットの経営は、それぞれまったく別のビジネスである。しかも、コンビニエンスストアやスーパーマーケットのビジネスが、本業の焼肉店チェーンビジネスに、シナジー効果をほとんどもたらさない。これは、落ち着いて考えると、容易に理解できるはずである。大手スーパーマーケットが経営する外食ビジネスでも、外食市場での存在感が低いという事実を考えると、資本力のない中堅企業が、絶対的に数の論理がものをいう、チェーン店ビジネスで、3分野も同時に追い求めることは、不可能である。

焼肉店チェーンという新しいコンセプトを確立し、優良企業として、外食産業の先頭を走っていたのに、本質的にまったく違うビジネスに手を出すべきではなかった。ステーキと違って、焼肉は、日本が生んだ固有の文化である。食の高級化が猛スピードで進む、中国をはじめとするアジアの諸国へ進出すれば、素晴らしいビジネスが展開できたはずである。世界の食通にとって、日本の食材で一番印象に残るのは、焼肉あるいは焼き鳥に必要な「たれ」である。単純にソースと英訳してしまうと、「たれ」のもつ本来の意味が失われるくらいに、奥深い文化なのである。

富士重工は、車の走行性能を重視するファンに的を絞って、車を開発しマーケティングをしている。トヨタや日産との競合をさけて、ひたすら、車好きのための車に焦点を当てている。事実、日本で考える以上に、北米では、スバルの人気は高く、スバリストと呼ばれるファンが存在する。どんな大企業でも、資金を含む経営資源には限りがある。グローバルな競争が、ますます激しくなっていく現状をみれば、経営資源の最適配分が、ますます重要になってくる。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)