ハリウッドの映画会社であるMGMが破綻した。ライオンがほえるオープニングシーンで有名な映画会社で、ミュージカル映画の大作で一世を風靡し、007シリーズやロッキーシリーズでも有名である。しかし、大衆の娯楽が多様化していくなか、多額の投資をして大作を作り続けるというのは、誰が考えてもリスクが大きい。時代の変化を見ず、リスクを分散する努力をしないで、大作主義の理想を捨てきれずに企業が破綻したとなれば、経営陣の責任は大きい。映画館が超満員で、多くの観客が立ち見でしか映画を見ることができなかった時代はもうこない。ビジネスでは、昔の夢をもう一度という現象はまずありえない。

調べてみると日本の映画界でも、MGMと同じようなことが今年の初めに起こっている。東京渋谷に本社を置く、シネカノンという「総合映画会社」が1月28日に民事再生手続き開始の申し立てをしている。シネカノンが有名になったのは、その作品の質の高さとともに、中小企業でありながら、映画の製作、配給をするだけでなく、自らも映画館を所有していたことである。まさに、映画の質で、東宝、東映、松竹等の大手と戦うという戦略である。資本のバックアップもなく一貫体制で、大手と戦うには、観衆の期待に応えることのできる素晴らしい作品を作り続けることが必要であるが、それはまず不可能である。

映画ファンというのは移り気なものである。そのような映画ファンを満足させ続けるのは、至難の業である。ハリウッドでも日本でも、かつて巨匠と言われた監督が晩年になって作った映画が、期待したほど興業的に成功しなかったという例は多い。大ヒットした「座頭市シリーズ」も、現在の若者に受け入れてもらうには、北野武監督がやったような現代の感覚を取り込む必要がある。このような時代の変化を考えると、大作主義あるいは少数精鋭主義が、いかにリスクが大きいか理解できる。

シネカノンが抱えていたもう一つの致命的な問題点は、リスクを分散する戦略が欠けていたことである。大手の東宝といえども、多くのビルを所有して不動産の賃貸事業で、映画の興業をバックアップしている事実を知ることが必要である。どのようなビジネスであっても、時代の変化に対応できないと淘汰される。そのためには、資本のバックアップが不可欠であるとともに、リスクを分散する努力を忘れてはいけない。世の中、すべて自分の考える理想どおりにはいかない。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)