九州にある船舶用機械の大手メーカーが破綻した。その破綻までの経緯を読むと、あまりも楽観的な事業展開に唖然とする。この企業は、1980年代後半の造船不況以降、約20年間にわたって粉飾決算を繰り返していた。そして、取引先の地方銀行は、その粉飾決算の事実を知っていて、この企業に融資を続けていたというからさらに驚く。当然、この銀行の経営が悪化し、さらに大きな地方銀行グループの子会社になった。このような状況になっても、この企業は銀行が支援を続けてくれれば、再建が可能だったと主張する。このような企業の楽観的なビジネス感覚を見ていると、日本振興銀行が破綻したのも理解できる。これでは、一時話題になった、返済猶予構想も何の役にも立たない。

粉飾決算を続けていたという事実とともに、この企業がおかした戦略上の大きな間違いは、造船事業へ参入したことである。つまり、船の一部だけを請け負っていたものを、船全体を造る側に回ったことである。その決断を可能にしたのが、国内外の船主から得た、「造船をやれば注文を出す」という約束。そして、大量受注に備えて、中国で約165万平米という造船所を建設した。この造船所は完成すれば、日本企業の造船所のなかで最大規模になるはずであった。こんな大きな造船所を作って、もし受注が止まったらどうするのか。事業はギャンブルではない。規模の経済性で日立造船のような大企業と競争しょうと考えることがすでにギャンブル思考である。

過去に、飯山電機という優れたフラットスクリーンCRTで有名な企業があった。CRTの優れた技術と好調な売上に気をよくしたのか、パソコンの製造販売を始めた。そして、市場から消えていった。まったく、このケースの企業と同じ。部品を作るのと、完成品を作るのとは全く違うビジネスである。さらに、完成品ビジネスに参入すると、競合会社が加速度的に増えることを考える必要がある。自分たちのビジネス領域に参入した新規企業を温かく迎える企業はない。既存の企業は、新規企業を叩き潰そうとする。当然である。これから、一緒にがんばりましょうというのは、表向きの顔であることを理解する必要がある。

昔、キヤノンがノートブックPCの製造販売をしていた時期があった。社長が交代したときに、直ちに撤退している。これが正しい戦略である。後に経団連の会長になられたこの社長の決断力の素晴らしさが理解できる。キヤノンのような超優良な大企業といえども、ビジネス領域を安易に広げる時代ではない。この企業の経営者は、松下幸之助氏の「企業は二階に上がる努力をする必要はあるけれども、一度に二階には上がれない」という教えを学ぶべきであった。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)