米国のハイテク企業が倒産し、そのあおりで福島県の会津若松市にある日本法人も倒産した。この米国企業は、NOR型という種類のメモリーの専業メーカーで、世界市場で30%のシェアを握っていた有力企業である。NOR型メモリーの将来性にかけ、日本法人に1,000億円超もの投資をして、NOR型メモリーを作る最新鋭の製造装置を揃えた。このグループの2007年の売上高は2,000億円。その状況で1,000億円超の投資をして新工場を建設したのだから、計画がうまく行かない場合はどうなるか誰にでも予測できる。

このような企業は一種のコスト病に罹っていると言っても過言ではない。大量生産で安く作って、できるだけ多くのシェアを獲得する。そのためには大規模な専用ラインが不可欠になる。専用ラインとは、汎用性がほとんどないラインを意味する。しかも、設備も機械も大規模になればなるほど、仕様変更することは大きな投資が必要となり、ほとんど不可能になる。また、今をときめく最先端の技術も、いつ時代遅れになるか分からない。そのときに、このような大規模投資で建設した設備をどうするのか、誰も考えない。考えるのは、大規模設備で大規模に製造すれば、コストがさがり、市場にどっと流すことが可能になるという夢ばかり。

どのようなビジネスでも、もうかるビジネスには企業が次々と参入し、競争が激しくなり、製品コストは下がる。それと並行して、既存の技術を負かす技術が現れる。また、下位にある商品の性能も向上して、市場のすみ分けが難しくなる。かつて、ミニ・コンピュータというコンセプトで市場を独占したデジタル・エクィプメントという米国企業があった。しかし、パソコンの性能が大幅に向上し、パソコンとの市場のすみ分けが不可能になると売上が急落し、市場から消えていった。急速に進化する技術を見誤った。

以上のような環境の変化が起こったら、どのように対処するかも考えておく必要がある。このような大規模の専用ラインだと、大規模であるがゆえに、次世代の製品に仕様を合わせることは、多額の投資が必要となり、経営資源に余裕がないと難しい。中堅企業にとって、設備投資は一発勝負で決定するものではない。小規模から始めて、少しずつ拡大するべきである。小規模のラインだと、市場の動向にあわせて仕様を変更するのも、大規模ラインと比較すると容易に行える。一度に大規模な設備を建設すると、労働力もさることながら、設備を維持するためのコストは、必ず当初の予定を上回る。これは政治の世界を見れば容易に理解できる。政治の世界では、税金で穴埋めできるが、ビジネスの世界では、まったく話は違ってくる。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)