精密・家電大手メーカー向け部品の受注で、急成長した金属部品加工で有名な企業が民事再生法の適用を申請した。この企業の得意先には、日本光学、ソニー、IBMといった大企業の名前が並ぶ。特に、日本光学の協力工場のなかでは、御三家と呼ばれていた有名企業である。大手企業とのビジネスに誇りを持ちすぎて、自社で技術と得意先を開拓する努力を怠った。いつまでも「法人の山一」という金看板を下ろすことができず、市場から消えていった山一證券を思い出させる。

大手企業の厳しい要求を満たすため、設備投資は欠かせない。そうなると、設備を遊休化させるわけにはいかないので、利益率の低いビジネスも引き受けるようになる。この企業は、04年にアップルから大口の受注を得た。しかし、アップル側の要求に応えた結果、原価が売価の何倍にも膨らんで、赤字受注になった。しかも、アップル向けの売上が全体の40%にまで拡大していった。いくら大量の注文があっても赤字受注では、会社は倒産へ直行である。そして行く末は粉飾決算。過大すぎた設備投資が、完全に裏目に出た格好である。

東京都内に、時計の文字盤や避難経路の誘導板に使用する夜光塗料で有名な企業がある。90年に放射性物質を含むそれまでの塗料を廃止する動きが時計メーカーに広まった。そこで、この企業は社運をかけて代替品の研究に取り組み、3,000回以上の実験を重ねて、放射性物質を含まない物質を主体にした塗料を完成させた。この素晴らしい商品は、あっという間に世界市場に広まり、現在は世界市場で80%のシェアを誇っている。また、放射線を扱う過程で得た検知技術を活用して、煙センサーや新薬の研究支援などに手を広げている。どれもあまり景気に左右されない分野で、リーマンショックの影響も少なくてすんでいる。

上記の2社を比較すると、目先の売上に目を奪われ、大手と取引しているとプライドを捨てることができず、自社の技術を開発する努力を忘れた企業と、地道に自社の強みを掘り下げた企業の差がはっきりと出ている。さらに、中堅企業は、大手企業とのビジネスに大きく依存するべきではないという教訓を与えている。よく大手企業は冷たいと言われる。しかし、大手企業といえども、生き残りに必死なのである。このことを理解する必要がある。ビジネスでは、最後に頼るのは自社の強みである。ドラッカーが説いているように、「自社の強みを掘り下げる」努力をしないと、市場から淘汰されてしまう。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)