インドのタタグループが、本格的な民族系自動車会社へと大躍進している。タタグループは、社員数が約40万人、傘下に抱える企業が98社、世界80カ国で事業を行っており、売り上げが約700億ドルという巨大企業である。現社長の曽祖父が1868年に創立した企業で、創立の年は、奇しくも日本の明治維新の年ということになる。インドでは、経済の発展とともに自動車の売り上げも急上昇。インドに本格的なモータリゼーションの到来である。

タタ自動車は、有り余る資金で2008年には、フォードからジャガーとランド・ローバーを買収して、自動車業界からスポットライトを浴びた。買収時は、高い買い物と言われたこの2車種も、米国と中国で高級車の需要が急上昇したおかげで、タタ自動車の営業利益に大きく貢献しており、同社の高級車路線の柱となっている。インドの昨年の自動車販売数量は、約220万台で、年率で30%の伸び率を記録している。タタ自動車は、大衆車のナノから高級車まで揃えるフルラインアップ戦略をとって、インドの国内市場を席巻する。

しかし、やはり問題は交通インフラの整備である。さらに、悪名高い非効率な官僚機構と連邦主義がある。中国と同様に国土が広大であるが、中央集権的に国を挙げて交通インフラを整備している中国と違って、連邦意識の強いインドでは交通インフラの整備には、まだまだ時間がかかりそうである。何と言っても、三輪自動車、人力車、トラックターが道路をのんびりと走る風景が連想される国である。しかし、状況は確実に変化している。

タタ自動車の軌跡を見ると、車づくりの極意をジャガーやローバーから習得し、その技術を大衆車に移植して、高級車から大衆車までラインアップをそろえており、着実に前進しようとする戦略がみえてくる。常に技術革新を忘れず、地道な努力を続けるトヨタ自動車の影響が見え隠れする。かつて、東ドイツには、名車と言われたトラバントという車があった。東ドイツが独自に開発した国民車であるが、技術革新を忘れたため、東西ドイツが統一されると、たちまち市場から追い出されてしまった。技術が進めば進むほど、技術革新の必要性は大きくなる。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.) (Source: Fortune May 2, 2011)