今日は、今から70年近く前のお話をします。

年末に近い日曜日、都会の百貨店のお好み食堂に
両親に連れられて10歳の女の子が嬉しそうにあらわれました。

彼女は、弾けそうな満面の笑みと飛び上がりそうな元気を
ショーウインドウのガラスに映していました。
なぜなら、今日は彼女の誕生日で、ご両親がお祝いにと
この洒落た食堂につれてきてくださったのです。

この両親は、それほど裕福な家庭を営んでいるわけでは有りませんでしたが
やっと、可愛く育ちあがった娘に10歳の誕生日を
何とかして幸せな気持ちで過ごさせてあげたくなったのです。

もう中に入りたくって、飛び上がりそうになっている彼女に
お母さんが、優しい声で「お誕生日おめでとう。今日は貴方の10歳のお誕生日ね。
さぁ、何でも食べたいものを選んでね」と告げました。

実は、彼女には大好きな食べモノがたくさん有りました。
今まで我慢して、今日と言う日を楽しみにしていたのです。

そこで彼女は「あのネ、ハンバーグとスパゲティとオムレツとエビフライとプリンと・・」
一気にここまで言って、一息入れてから
更に「チキンライスと唐揚とポテトフライとソーセージと・・・」と続けました。

お母さんは、目を丸くして
「あらあら、何を言ってるの?そんなに食べられるわけないでしょう」
と困って言いました。
でも彼女は「あのネ、お母さんは『何でも好きなものを選んで良い』って・・・」
と、こちらも困った顔をしています。

そこでお父さんが「おいおい、無理な事を言うんじゃない。そんなに食べきれないよ。

『好きなものを選んで良いんだって』言っても一つだよ」と、やはりやさしい声で告げました。
でも本当は、少し困っていました。
出来る事なら、何でも頼んであげたいのですが、お父さんのお財布には
そんなにたくさんのお金は入っていなかったからです。

でも、誕生日を迎えて楽しみいっぱいの彼女にはそんな事は知る由もないのです。

だから・・・つい

「お母さんの嘘つき!お父さんの意地悪!」って

言ってしまったのです。

お母さんとお父さんは、顔を見合わせてしまいました。
お祝いをしてあげようとしたのに、嘘つきと意地悪になってしまったのですから
当然です。

困った顔の両親に「全部じゃなきゃ!いや!」って声が追っかけてきました。
10歳の彼女には、もう自分の気持ちを抑える事が出来ませんでした。
「全部じゃなきゃ!・・・・全部じゃなきゃ!」
小さな声で、繰り返すだけで、体はこわばっています。

今にも泣き出しそうな彼女の様子を見て
「これじゃ。話も出来ない!帰ろう!」
お父さんが、お母さんに話しかけました

・・・・そのときのことです。

お店の中から店員さんがでてきました。
「あの、もしよろしかったらお任せいただけませんか?」
そう言うと、その店員さんは彼女の側に寄り添って
「お誕生日、おめでとう御座います。今日はお店からのお祝いをさせてください」
と話しかけたのです。
ご両親はビックリして「そんな事は出来ません。第一、そんなお金も・・・」
でも店員さんは「私に考えがありますので、お金はかかりませんから
少し任せてください」
そういうとにっこり笑って、店内に案内してくれました。

席についてから、「チョと待っていてくださいね」と言い残して
店員さんは大急ぎで、店の奥に小走りで消えていきました。

彼女もご両親も何が起きているのかがわからず、少しだけ不安になりましたが
店員さんの笑顔を信じて、おとなしく待つことにしました。

数分の後「お待たせいたしました」と声と
「おめでとう御座います」と言う大勢の声がして、振り向くと
たくさんの店員さん達が笑っています。

そして、少し大きめのお皿が彼女の前に運ばれてきました。

なんと、そこには
小さめのハンバーグと少しのスパゲティと小山に盛られたチキンライスに
やっぱり小さいエビフライが添えられ、隅の方には唐揚が乗っていました。

「キャー♪」彼女は小さく叫びました。
だってそこには、食べたかったすべてがあるのです。
正確には、プリンもポテトフライもソーセージもなかったのですが
もうそんな事は、どうでもよかったのです。
だって、ハンバーグもスパゲティもチキンライスもエビフライも唐揚だって
有るんですから、お祝いには充分です。

もう、あのこわばった顔も涙は、何処にもありません。
誕生日プレゼントを前にした満面の笑みが溢れました。

お父さんが「すみません。本当にありがとう御座います」と
店員さんにお礼を言いますと、店員さんは、少しはにかんだ様子で
「いいえ、こちらこそ申し訳御座いません。
お嬢様が食べたいお料理がなかった事が恥ずかしいと思います。
それに、実はこの百貨店も開店10周年なんです。つまりお嬢様と同い年です。
一緒にお祝いしてください」と言いました。

実は、ショーウインドゥの前に家族が現れたときから
店員さんは「まあ、なんて可愛いお嬢さんだろう。うちの店に来てくれると良いな」
とお店の中から、一部始終を見ていたのです。
こうして店員さんの粋な計らいで、彼女の10歳の誕生日は無事に
そして、幸せに包まれて過ごされました。

この、子供の大好きなモノが少しずつ、大きなお皿にたくさん盛られた料理が
やがてお子様ランチになって行きます。
チキンライスには、小さな旗が立ち、簡単な玩具も付くようになります。

一つずつのお料理が小さいのは、材料費をケチっているのでは有りません。
お子様が『好きなものを全部食べられるように』と配慮しているのです。

工夫次第で、できる事があります。

そんなに背伸びをしなくても、お客様に喜んでいただける事はできるものです。

何処かの格言に
「お金が無いから何も出来ない」と嘆く人たちは「お金があっても何も出ない」人達だ。
と言うのが有ります。

何かをするのには、お金ではなく≪やる気≫が必要です。
もし、お金が沢山あっても、お客様のお喜びに繋がらない事なら
する必要はありません。

そして、出来る事からしていきましょう。
決して立ち止まっていてはいけません。
貴方は立ち止まっているつもりでも、世間のお客様からは遅れていくからです。

「出来る事をする」そして「立ち止まらない」のお話。でした。

次回からは、いつもの運営格言集に戻ります。