2010年 11月の記事一覧

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10年11月29日 11時41分09秒
Posted by: 戦略研究.com
ハリウッドの映画会社であるMGMが破綻した。ライオンがほえるオープニングシーンで有名な映画会社で、ミュージカル映画の大作で一世を風靡し、007シリーズやロッキーシリーズでも有名である。しかし、大衆の娯楽が多様化していくなか、多額の投資をして大作を作り続けるというのは、誰が考えてもリスクが大きい。時代の変化を見ず、リスクを分散する努力をしないで、大作主義の理想を捨てきれずに企業が破綻したとなれば、経営陣の責任は大きい。映画館が超満員で、多くの観客が立ち見でしか映画を見ることができなかった時代はもうこない。ビジネスでは、昔の夢をもう一度という現象はまずありえない。

調べてみると日本の映画界でも、MGMと同じようなことが今年の初めに起こっている。東京渋谷に本社を置く、シネカノンという「総合映画会社」が1月28日に民事再生手続き開始の申し立てをしている。シネカノンが有名になったのは、その作品の質の高さとともに、中小企業でありながら、映画の製作、配給をするだけでなく、自らも映画館を所有していたことである。まさに、映画の質で、東宝、東映、松竹等の大手と戦うという戦略である。資本のバックアップもなく一貫体制で、大手と戦うには、観衆の期待に応えることのできる素晴らしい作品を作り続けることが必要であるが、それはまず不可能である。

映画ファンというのは移り気なものである。そのような映画ファンを満足させ続けるのは、至難の業である。ハリウッドでも日本でも、かつて巨匠と言われた監督が晩年になって作った映画が、期待したほど興業的に成功しなかったという例は多い。大ヒットした「座頭市シリーズ」も、現在の若者に受け入れてもらうには、北野武監督がやったような現代の感覚を取り込む必要がある。このような時代の変化を考えると、大作主義あるいは少数精鋭主義が、いかにリスクが大きいか理解できる。

シネカノンが抱えていたもう一つの致命的な問題点は、リスクを分散する戦略が欠けていたことである。大手の東宝といえども、多くのビルを所有して不動産の賃貸事業で、映画の興業をバックアップしている事実を知ることが必要である。どのようなビジネスであっても、時代の変化に対応できないと淘汰される。そのためには、資本のバックアップが不可欠であるとともに、リスクを分散する努力を忘れてはいけない。世の中、すべて自分の考える理想どおりにはいかない。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)
10年11月22日 15時21分08秒
Posted by: 戦略研究.com
2009年末にホテルが客室数で旅館を初めて追い抜いた。2009年末時点の数は、ホテルが798,070 で旅館が791,907であった。ホテルは都市観光人気やビジネス需要の回復で増え続けているが、旅館は団体旅行の減少などの逆風から廃業があとを絶たない。

旅館は基本的に、団体客を前提にした設計になっている。複数の宿泊客を一部屋に割り当て、大宴会場で団体客を食事でもてなすというスタイルになっている。社員旅行や修学旅行等の団体旅行は、旅館の収益の大きな柱である。そのため、宴会の準備等のサービスをする女性も多く抱える必要があり、人件費等の固定費も高い水準である。したがって、損益分岐点も高い。しかし、社員旅行は、景気に大きく左右されるし、修学旅行は海外に出かける時代になっている。しかも、少子化で生徒数は減少し続ける。このような変化に手を打てないうえに、海外からの観光客に対応できない旧態依然としたビジネスをしている旅館は、ますますビジネスの潮流から取り残されていく。

温泉地にある旅館なら、日本の団体客だけでなく海外からの団体客を取り込むことも可能であるが、都市部にある中小規模の旅館は、現状のままでは生き残りは難しい。事実、都市部にあるホテルは、少人数向けの客室をそなえて、個人客と団体客の両方を取り込んでいるため、着実にビジネスを伸ばしている。ここは発想を転換して、旅館は海外からの訪問客を取り込む工夫をすることが必要である。インターネットで情報を発信して日本の都市を見学し、日本の旅館が提供する日本風のもてなしを体験しながら、数日間、日本の都市に滞在したいと考える海外からの訪問者に焦点を合わせることである。また、日本で短期的に就労して、お金を稼ぎながら、世界を回りたいと考える人々も多い。そのような人々の、口コミによるネットワークは大きなマーケティングツールである。彼らに、ウィークリーで割引料金を提供することも可能である。

海外から来る人々には、温泉は魅力があっても、何日も連続して温泉宿に滞在する者は少ない。旅館業に必要なことは、いかに自社の強みを用いてホテルと差別化をするかである。これからは、世界、特にアジアからの観光客をいかに取り込むかに智恵をしぼる必要がある。宿泊料金だけでは、大手のチェーンホテルと戦って勝ち目はない。日本国内で考える以上に、世界の人々は日本に関心を持っているし、日本は魅力ある国である。対象とする市場を世界と考えると、世界の人々が要求するものは、千差万別である。中小の旅館といえども、機能一辺倒のホテルチェーンに勝てる道はある。 要は、市場をもっともっと細分化することが必要である。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)
10年11月16日 17時00分25秒
Posted by: 戦略研究.com
農業問題に関する議論がますます白熱化している。農業は票集めに重要な産業であるため、どの政党も思い切った政策を実行できない。そして、農業従事者は、被害者意識を高揚させて、ヒステリックに自由化に反対する。農政には、改革すべき点が山積しているのに、いつまでたっても、堂々巡りの議論が続く。さらに悪いことには、現政権には、確固たる信念も明確な目標もないため、政策が一定せず、まるで二日酔いのサラリーマンのようである。常に「農業の自由化は国家の存亡に関わる」ので、もっと議論が必要という結論になる。そして、議論が延々と続く。

農業といえども、グローバル化の流れを避けて存続できない時代になっている。どのように、農家を保護しようとも、農家にグローバル化に対処する術を知ってもらわないと、まったく無駄な努力である。日本の農業が内向きの姿勢を変えないと、日本が想像する以上に外国産の農産物の質はどんどん向上していく。そして、気が付いたときには、高品質と思っていた日本の農産物と輸入農産物の品質の差はなかったということになる。競争は避けるべきではない。情報が瞬時に世界を駆け巡る昨今では、品種改良、土壌改良、流通改革等の情報は、競争国にすぐに伝わって、日本市場に焦点をあわせた商品がすぐに開発される。

日本の場合は、特に小規模農家の保護が手厚い。しかし、保護するだけでは小規模農家の競争力の強化につながらない。グローバルな競争を避けずに、日本の農家の競争力を強化する政策が必要不可欠である。自由化を議論すると、すぐに、米国の大規模農業との比較になる。しかし、どのようなビジネスでも、規模の経済性だけで勝負が決まるものではない。食べ物があふれているという現実を直視しないで、戦後の食べ物がなかった時代の農政を続けても、時代にあった政策は構築できない。現在、我々が食べている米は、20年前の米とは全然違う。今、日本の農業従事者に必要なのは、20年前の内向きの思考態度を変え、競争を避けずにグローバルな競争に立ち向かう思考態度である。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)
10年11月08日 17時03分42秒
Posted by: 戦略研究.com
企業向けの販促支援サービスで、メディアの注目を浴びたメル・ポスネットが経営破綻した。倍々ゲームで業績を伸ばしたが、寄り合い所帯であったため、絶頂期はほんのわずかであった。同社を一躍有名にしたのは、サンプル・ラボである。これは、会員に無料で、食品や雑貨、化粧品などの試供品を提供するものである。二つ目が、格安の液晶テレビの販売で、三つ目が家庭のポストにチラシを配布するポスティング事業である。この三つの事業をみると、まったくシナジー効果が存在しないうえに、サンプル・ラボと格安液晶テレビは、事業として成功させることは、まずもって不可能である。

サンプル・ラボの場合、そもそも計算が甘い。消費者は会員になった以上、できるだけ多くサンプルをもらって、会費を回収しようとする。そうすると、かなりの企業に参加してもらわないとこのビジネスモデルは成立しない。参加企業は、提供した無料の試供品と引き換えに、会員からアンケート結果を受け取るだけである。アンケート結果をもらうだけに、1週間20万円の展示スペース代を払って、無料の試供品を提供し続ける企業は少ない。無料の試供品をできるだけ数多くもらいたい消費者と、少ない投資で情報を集めようとする企業の思惑が一致することはない。

会員は、入会金300円と年会費1000円で、会員登録をする。会員はアンケートへの回答を条件に、好きなサンプルを1日5品まで持ち帰ることが可能となっている。仮に、5万人の会員を集めることができても、会費から得られる収入は、6,500万円に過ぎない。会員収入以外には、増える見込みの少ない参加企業から得られる展示スペースの使用料だけである。この収入で、店舗の賃貸料や人件費等の固定費を支払うというから、早晩破綻するのは目に見えている。結局、試供品の品揃えが貧弱なため、短期間で消費者から愛想を付かされてしまった。

格安液晶テレビは、成功するはずがない。商品というものは、競争が激化すると価格は否が応でも下がる。価格が下がると、企業力の勝負となり、アイデアだけで資本力のない企業は、たちまち土俵の外へ弾き飛ばされる。少し考えると、誰でも理解できる原理である。そして、同社の格安テレビがコンセントからの発火事故を起こす。そのため、受注が激減した。悪いことに、格安液晶テレビの製造を委託していた台湾メーカーへの代金支払いのため、他の二つの事業の売上金から、多額の前受け金を差し入れていた。駅前留学といううたい文句で、教師への給与の支払いもせず、事業拡大という夢に踊り狂った英会話学校によく似ている。

リスクを読む力は必要である。リスクを読むことなく、世の中は自分中心で回っているという天動説で踊り狂うと、ビジネスの世界でも政治の世界でも、結末は悲惨である。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)
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