英国の老舗自動車メーカーであるアストンマーチンが、シグネットという大衆向けの小型車を発売した。この車は、トヨタが販売するトヨタIQと基本設計は同じであるが、内装に本革を使用して高級車というイメージで差別化をしている。しかし、トヨタIQが2万ドルであるのに対して、シグネットは5万ドルという価格設定である。アストンマーチンは、このシグネットを年間1,500台販売しようという計画である。アストンマーチンといえばジェームズ・ボンドの愛用車として有名な超高級車で、最新型のDBSは28万ドルもする。

つまり、日本車の2倍の価格で、基本的に同じ車を、英国風の味付けをして発売するという計画である。いくら、内装は豪華でも、基本性能が同じ車で2倍の価格を支払う顧客が多いとは思えない。さらに重要なことは、車の販売に一番重要な販売員の意欲の問題がある。28万ドルの車を売る意欲と5万ドルの車を売る意欲が同じとは考えられない。インセンティブのパーセンテージを少し上げても、絶対金額には雲泥の差がある。

日本車の基本設計を使用して英国風の味付けをする手法は、同じ英国の自動車メーカーであるローバーが採用したことがある。ホンダのアキュラと基本的に同じ車を、英国風の味付けをしてスターリングというブランド名で発売した。「アキュラのような車を、英国でも製作できる」というキャッチフレーズで、大々的に広告を出した。素晴らしい車であったが、事業としてはあまり成功しなかったため、それに続く車を市場に投入することができなかった。

マーケティングはイメージの勝負である。これは、セルシオの廉価版であるプログレがどれだけ売れているかを考えると理解できる。キャデラックの4気筒版であるキャデラックシマロンは、まったく売れなかった。逆もまた真なりで、大衆車メーカーであるフォルクスワーゲンが発売した8気筒車のフェートンは、完全な失敗に終わった。せっかく築き上げたイメージの価値を傷つけるだけに終わった事例は、どの業界にも見られる。

以上の事例を比較すると、ハーゲンダッツのマーケティングの素晴らしさが理解できる。このハーゲンダッツという名前から、何となくヨーロッパのイメージを連想されるが、このアイスクリームは、米国のブルックリンが発祥の地であるというから驚きである。しかも、ハーゲンダッツという名前は、創業者夫婦が考えた名前で、とくに意味がないというからさらに驚く。創業者夫婦は、子供の食べ物であったアイスクリームを大人の食べ物にした大功労者であるが、大人の食べ物にするため、価格を高く設定して、徹底的に品質にこだわっている。他社のアイスクリームと比較して、水分が少ないため、ハーゲンダッツのアイスクリームは硬い。

現在、ゼネラルミルズの一部門になってしまったが、築いたブランドイメージを大事にして、ハーゲンダッツは世界中でプレミアムアイスクリームとして販売されており、グローバル市場で販路を着実に広げるている。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)