電気自動車のベンチャー企業であるゼロスポーツが、3月1日、近く岐阜地裁に自己破産の申請をすることを発表した。負債総額は約11億円で、同日付で、ほとんどの従業員を解雇している。破綻の原因は、日本郵政公社に納入する郵便集配車が、納入が遅れる可能性があるため、今年1月に日本郵政公社から契約を解除されたからだと報道されている。契約解除にいたる経緯はともかく、ベンチャー企業が納入すべき車両数が、1030台というから恐れ入る。しかも、そのうちの30台を今年1月から2月に納入するはずであったが、まだ納入されていない。これでは販売計画も生産計画もあったものではない。ただ1030台の納入を完了したときの、祝賀の瞬間を夢見てばく進するだけという感じである。

ベンチャー企業に1000台以上の車両を発注した発注者も問題であるが、そのような大量の注文を受けるベンチャー企業も大きな問題である。松下幸之助氏は「一度に2階には上がれない」と説いているが、この企業は「一度に10階まで上がろう」としている。ビジネスとは、商品を得意先に納入した時点で終わりというものではない。患者の病を治療し、患者が健康な身体で日常生活をエンジョイして医者に感謝したときに、医者は自分のビジネスが終わったと考えるべきである。広告会社のビジネスは、テレビに企業の広告を流した時点で終わるのではない。企画した広告によって、消費者の認知度があがり、企業の売り上げも増加してはじめて、広告会社のビジネスが完結する。

このように考えると、1000台もの受注は、ベンチャー企業にはとてつもなく大きいことが理解できる。仮に、このような大量の注文を完納したとして、その後もこのような大量の受注が期待できるであろうか。技術の進歩は速い。トリニトロンは発売当時、素晴らしい技術であった。しかし、未来永劫に素晴らしい技術であるという保証はない。この事実を忘れたから、ソニーは薄型テレビに出遅れた。ソニーは超大企業であるから、このような遅れはたいした問題ではない。しかし、中小企業やベンチャー企業は、超大企業と同じ考え方をするべきではない。

もう一つ、このベンチャー企業が抱える大きな問題点は、メインバンクがなかったことである。この企業は、日本郵政公社との契約が解除された直後に、金融機関から融資資金の返済を迫られ、急激に資金繰りを悪化させている。資金回収は、銀行から見れば当然の判断である。それだけに、すべての企業にとって最後の頼りになるメインバンクは必要である。ましてや、日本郵政公社が納入先ともなれば、政治の力も無視できない。ただわが社の技術の素晴らしさが理解してもらえたという甘い考え方だけでは、このような事態は、起こるべくして起こったと言わざるを得ない。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)