英国のアクアスキュータムが破綻した。アクアスキュータムは、バーバリーよりも古い歴史をもち、世界に通用するプレミアムブランドであるが、自ら市場を開拓するという努力をせず、安易に、1990年にレナウンに約190億円で身売りをしてしまった。そして、今度は、そのレナウンが経営不振になって、中国企業に買収されてしまう。これで万事休す。そもそもレナウンがアクアスキュータムを買収すること自体が間違っている。海外のプレミアムブランドを買収すると、必ずその国の国民感情を、傷つけて、売り上げが激変する。それは、立場を変えると理解できる。日本人が愛してやまない日本のプレミアブランドが海外企業に買収されたら、日本人の心が急速に離れていくのは当然である。国民感情とは、そういうものである。

アクアスキュータムのケースは、販売を第三者にまかせることの危険性を再認識させてくれる。どんなに素晴らしい技術、商品、ブランドであっても、販売と市場開拓は、自社でやるという鉄則を忘れてはいけない。カルピスも同じ事例と考えることができる。味の素の傘下に入れば、ビジネスは問題ないと考えても、味の素の都合でアサヒ飲料グループに、いとも簡単に売却されてしまう。販売委託先の販売力を考えれば、当社の売り上げも上昇し、ばら色の人生が開けるという思いは、販売委託先の業績が悪化してしまえば、うたかたの夢に終わってしまう。

プレミアムブランドのマーケティングを考える場合、プレミアムを演出する舞台装置が必要である。その事実を忘れて、安易に廉価版を市場に投入して、シェアを増加させたが、ブランド価値を下げてしまう事例は多い。しかし、プレミアウムブランドといえども、シェアの拡大は必要である。しかし、それは、プレミアム市場でのシェアであるという認識が必要で、プレミアム市場でのシェア拡大にはどうすればよいかを考える必要がある。それには、以下の2点に焦点を絞るのがよい。1)ロイヤルティの高い顧客を引きつけて逃さない。そして、2)市場をさらに細分化して、その細分化した市場で、さらにブランド価値を高める。つまり、限られた市場で、常に技術革新を忘れず、常に新製品を出し続ける。

以上の2点を考慮すると、イタリアの誇るプレミアムブランドであるフェラーリのビジネスが理解できる。フェラーリは、高級車を購入できるお金持ちにフォーカスし、そのお金持ちを魅了する新型車を次々市場に投入している。この戦略は、高級品に特化して、市場を開拓しているスイスの腕時計メーカーの戦略をみるとよく理解できる。日本市場での腕時計の市場では、スイス時計のシェアは、数量ベースでは10%であるが、金額ベースでは60%であるという事実がこの状態を見事に具現化している。

世の中、不景気になっても、常に価値の高いプレミアムブランドを求める消費者は、必ず存在する。要は、フォーカスする市場を見失わないことである。そして、販売と市場開拓は他社にまかせないで、自社でおこなう。そして地道な努力をすることが必要である。学問に王道がないように、ビジネスにも王道はない。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.) http://senryaku-kenkyu-j.blogspot.jp/