2011年 5月の記事一覧

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11年05月06日 00時26分07秒
Posted by: 戦略研究.com
地震による災害で国内が何となく落ち着かない状態のなか、日本中を震撼とさせる食中毒事件が起こった。外食産業では、単一料金で商品を提供することが大流行。低価格を全面に出して集客にあらゆる智恵を絞っている。そして、少しでも安く提供して利益を確保するためには、あらゆる経費が削減の対象になる。行き過ぎた競争はやがて、どこかに無理が出てくる。外食産業で働く店長の過激な労働や残業代なしの勤労奉仕が改善されたのは、マスコミで大きく取り上げられてからである。そして、人件費を極限にまで削減すれば、次は原材料費と店舗管理費の削減となるのは、当然の成り行きである。

原材料費の削減は、食べ物商売では絶対に使ってはいけない禁じ手である。マクドナルドでさえ100円ハンバーガーを売り出した当初は、味が落ちて消費者が愕然としたのは、そんなに昔の話ではない。端的に言えば、今回の食中毒は、行き過ぎた単一料金ビジネスの当然の帰結として起こった悲劇ともいえる。チェーン店ビジネスでは、机上の計算に陥りやすい。店舗当たりの売り上げを店舗数で掛ければ、総売上が簡単に計算できる。そして、その机上の計算をもとに、事業計画を立案し、出店計画をたて、銀行から借り入れをして、売上目標の達成に骨身を削ってまい進する。しかし、そんな短期的視野でビジネスをしても、結局は長続きしない。

回転すしチェーンでずっと第一位の地位を維持していた「かっぱ寿司」を追い抜いて、昨年売り上げ日本一になった「スシロー」の戦略は、外食チェーン店には大いに参考になる。一般的な回転寿司チェーンの原材料費は40%から45%であるが、「スシロー」の原材料費は50%である。そして、子供向けのアトラクションに必要な店舗管理費は、一般的なチェーン店が29%であるが、「スシロー」は25%に抑えている。さらに、セントラルキッチンを持たず、店内で提供直前に調理をしている。海老は、店でスタッフが毎日手でむいている。つまり企業目的が、美味しい寿司を出すという、寿司店の本来の目的に焦点が合わされている。

急速に店舗を拡大した場合のもう一つの大きな問題点は、店長の育成が間に合わないことである。店長の粗製乱造は、専門店チェーンにとっては致命的である。特に、外食産業の場合は、原材料の目利きには、やはり年月が必要である。「スシロー」の躍進は、仕入れ部や店長の確かな目利きが、業界に知れ渡っているという事実と無関係ではない。今をときめくユニクロも、店長の育成が出店ペースに間に合わず、売り上げが大きく減少した時期があった。これからは、ビジネスの細分化がさらに進み、専門知識はますます高度化し、店長の育成に長い時間が必要になる。今や、マーケティングは、product, price, place, promotion, にperson を加えた5Pの時代になっている。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)
11年05月02日 15時03分42秒
Posted by: 戦略研究.com
インドのタタグループが、本格的な民族系自動車会社へと大躍進している。タタグループは、社員数が約40万人、傘下に抱える企業が98社、世界80カ国で事業を行っており、売り上げが約700億ドルという巨大企業である。現社長の曽祖父が1868年に創立した企業で、創立の年は、奇しくも日本の明治維新の年ということになる。インドでは、経済の発展とともに自動車の売り上げも急上昇。インドに本格的なモータリゼーションの到来である。

タタ自動車は、有り余る資金で2008年には、フォードからジャガーとランド・ローバーを買収して、自動車業界からスポットライトを浴びた。買収時は、高い買い物と言われたこの2車種も、米国と中国で高級車の需要が急上昇したおかげで、タタ自動車の営業利益に大きく貢献しており、同社の高級車路線の柱となっている。インドの昨年の自動車販売数量は、約220万台で、年率で30%の伸び率を記録している。タタ自動車は、大衆車のナノから高級車まで揃えるフルラインアップ戦略をとって、インドの国内市場を席巻する。

しかし、やはり問題は交通インフラの整備である。さらに、悪名高い非効率な官僚機構と連邦主義がある。中国と同様に国土が広大であるが、中央集権的に国を挙げて交通インフラを整備している中国と違って、連邦意識の強いインドでは交通インフラの整備には、まだまだ時間がかかりそうである。何と言っても、三輪自動車、人力車、トラックターが道路をのんびりと走る風景が連想される国である。しかし、状況は確実に変化している。

タタ自動車の軌跡を見ると、車づくりの極意をジャガーやローバーから習得し、その技術を大衆車に移植して、高級車から大衆車までラインアップをそろえており、着実に前進しようとする戦略がみえてくる。常に技術革新を忘れず、地道な努力を続けるトヨタ自動車の影響が見え隠れする。かつて、東ドイツには、名車と言われたトラバントという車があった。東ドイツが独自に開発した国民車であるが、技術革新を忘れたため、東西ドイツが統一されると、たちまち市場から追い出されてしまった。技術が進めば進むほど、技術革新の必要性は大きくなる。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.) (Source: Fortune May 2, 2011)
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