5 相続と登記
 ① AとBが土地の売買契約を締結した後、Aが死亡した場合、Bは、
  登記なくしてAの相続人に対して土地の所有権を対抗できる。Aの相
  続人もAと同様、当事者だからである。平成17年度【問8】肢1。
   しかし、Aの相続人から、さらに当該土地を譲り受けたCに対しては、
  Bは、登記がなければ対抗できない(
判例)。平成17年度【問8】
肢2。
   また、AとBが土地の売買契約を締結した後、Aから特定遺贈を受
  たDに対しても、Bは、登記がなければ対抗できない(
判例)

 ② ABが土地を共同相続したが、遺産の分割前に、AがBに無断で自
  己の単独登記をした後、Cに売却した場合、Bは、自己の相続分の登
  記がなくても、Cに対して「自己の相続分」を対抗できる。AがBに無断
  で自己の単独登記をしても、Bの持分については無権利者であり、C
  は無権利者から「Bの持分」を譲り受けているからである。
   なお、CがAの持分について所有権を取得するのはいうまでもない。
  平成19年度【問6】肢3、平成15年度【問12】肢1。

 ③ ABが土地を共同相続し、ABが各2分の1の共有登記をした後、
  産分割により、Bが当該土地を単独で相続したが、その登記(単独

  記)がない間に、Aが登記上の2分の1の持分をCに売却した場合、

  は、単独の登記をしなければ、Cに対して2分の1を対抗できない。
  (判例)。平成15年度【問12】肢2。
   この場合も、②と同じように、Aは遺産分割により自分の持分2分
  1の権利を失っており、無権利者となったのだから、Cは無権利者
Aか
  ら2分の1を売却により取得しているので、無権利者ではないの
かと
  いうことである。
   しかし、②の場合、相続によりAが取得したのは2分の1であり、
  り2分の1は、Bの権利である。これを勝手に自分の権利として単

  登記をしており、Aは、Bの2分の1については、はじめから全く
の無
  権利者である。だから、無権利者から譲り受けたCは、無権利者

  ある。
   ところが、③の事例は、遺産分割により、Aの持分の2分の1がB
  に移転している。他方Aの持分の2分の1は、AからC譲渡されてい
  る。つまり、共有持分の2分の1が、AからBに遺産分割により移転
  され、さらに、AからCに売買により譲渡されている。Aの持分がA
  B、A→Cに二重譲渡されているのである。しがって、Bは、その

  得する持分について登記(自分の持分と合わせて単独登記)をしな
  ければ、第三者に対抗できないとされるのである。Aの2分の1の持
  分については、Aは元々権利者であり、全くの無権利者ではなかっ
  た
のである。
   時効と登記のところで述べたことを参照。

 ④ ABが土地を共同相続したが、Aが相続を放棄したことにより、B
  が当該土地を単独で相続した場合、その後、Aが相続の放棄前に
  有し
ていた2分の1の持分をCに売却しても、Bは、その登記(単独
  所有
登記)なくして単独所有をCに対抗できる(判例)
   ③の遺産分割と異なり、相続の放棄により取得する場合には、登
  記
を要しないとするのが判例である。それは、相続の放棄をした者
  は、
その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみ
  なされ
(民法939)、Aの相続の放棄により、Aは初めから相続に
  ついては
持分を取得していなかったということになる。したがって、
  Aから持
分の譲渡を受けたCは、無権利者からの譲渡を受けたも
  のであり、無
権利者である。無権利者に対しては、登記なくして対
  抗できる。