書店員を巻き込んだ販促手法、について続きを書きます。

売れる本をより売る、ということは書店にとっての利益であり、ふだんは黒衣(クロコ)である店員さんがカリスマ性を持つにいたっては彼らの自尊心も満たされます。当然、販促企画に現場のキーマンを最初から巻き込んでしまい、特別扱いを期待できるというメリットが出版社サイドにはあるわけです。

ところで、新宿・紀伊國屋書店や神保町・三省堂の週間ベストセラーランキングは特別な意味を持っています。このランキングを見て、その他の中小書店が注文を決めるのです。そのため、何店かのメジャー書店で平積みされるかどうかで、各書籍がベストセラーになるかどうかが決まると言っても過言ではありません。

この仕組みを上手に利用していたのが、銀座でダイエット食品を販売している会社の名物社長S藤氏です。彼は、自らの著作物が発売になると、主な書店に50冊ずつの購入注文を出します。すると、まとまった注文により主要書店でランキング入りする。それを真に受けた地方書店などが優先的に仕入れてよい場所に並べるので、結局全国で売れていく。やがて本当にランキング入りする、という筋書きです。

S藤氏のベストセラー乱発を受け、現在ではまとめての注文は各店のランキングに反映されなくなりました。しかし、この裏技で思い知らされるのは、減少したとはいえ全国の書店各店に1冊でも在庫が行き渡るほどに初版を刷られる書籍は少ない、という事実ですね。

全国のリアルな書店数は17,000店前後ありますが、一方で書籍の初版刷りは3,000部や5,000部というのが平均的なところ。どう逆立ちしても、1店舗に1冊回らない。それが、AMAZONに代表される「ロングテール」へつながっていくというわけです。