チュニジアに始まり、エジプトでも長年続く独裁的な指導者を倒した反政府デモは、今リビアやバーレーンに飛び火し、中東全体に拡がっている。非民主的で独裁的な国家が迎える当然の帰結なのか。しかし、これほど短期間に大きく拡がろううとしている動きは、さながら冷戦の終結やソヴィエト連邦の崩壊を見ているようである。

若者が携帯電話やインターネットでデモを呼び掛けて民衆の力を結集していることがその原因の一つと言われており、情報社会の特性や影響の大きさをまざまざと見せつけられる思いがするが、それはあくまできっかけや道具立てに過ぎない。

それでは、本当の原因は何なのか?それは、明らかに中東全体にマグマのように貯め込まれていた民衆の怒りに違いない。

ヨーロッパを代表する国際政治学者の一人、フランスのドミニク・モイジ氏は、その著書「「感情」の地政学」(早川書房)で、副題を「恐怖・屈辱・希望はいかにして世界を創り変えるか」として、現代世界における「文明」の衝突ではなく「感情」の衝突を説明している。

モイジ氏は、端的に言えば、アジアを希望の文化、ヨーロッパを恐怖の文化、そしてアラブを屈辱の文化として描いている。アラブとイスラムの関係は単純ではないが、「アラブ・イスラム世界を屈辱が支配するようになった原因はさまざまだが、何より重要なのが、歴史的衰退の感覚である」という。

それはアラブ全体に蔓延する感覚であるが、独裁的な指導者や王族によって一向に改善されない貧富の差への怒りとが民衆のレベルでは二重になっていたのではないだろうか。

企業経営にも様々なスタイルがあるが、経営者の個性、組織文化、社員の性格、企業の置かれた状況などによって大きく変わってくるはずだ。経営者の強いリーダーシップが求められるとは言っても、その組織運営のあり方は実に様々で同じものは一つとしてないと言って良いだろう。

しかし、国家であれ、企業であれ、忘れてはならない共通のものがある。それは若者の「感情」だ。真の革命はしばしば若者の強い感情とエネルギーによってもたらされる。私のこれまでの組織に関するコンサルティングの経験によっても、若い人が抜擢された時に初めて組織のあり方が大きく変わることは明白だ。

そういった若者のさまざまな感情のベクトルを整えプラスの力に変えるためには、経営者も含めたシニアが変化に対する抵抗者ではなく支援者にならなければならないこともまた明らかだ。モイジ氏は、「1980年代のアジアの奇跡的経済成長には、(日本が他のアジア諸国に刻み込んだ)屈辱という国民感情に対する勝利の返答と言う一面もあった」と言う。優れた指導者の確かな国家運営があったということなのだろう。

エジプトのムバラク政権打倒を叫ぶ反政府デモに参加していた若者がニュースレポーターに向かって叫んでいた言葉が忘れられない。「30年前は、エジプトは韓国よりも進んだ国だったんだ!なのに、、、」これから形成・強化されようとする若者のアイデンティティーは、その求めるエネルギーと発揮する力が圧倒的である。

ヴィブランド・コンサルティング
代表取締役 澤田康伸