9 無権代理と登記
  代理権がないのに、他人の代理人として第三者と契約をした場合、
 表見代理が成立する要件を満たし、第三者が表見代理を主張すると
 契
約が有効として扱われる。表見代理の要件を満たさない場合には、
 狭
義の無権代理といい、この場合、本人の追認権と追認拒絶権が認
 めら
れている。
  無権代理の場合、本人はこれによって何らの法律効果を受けない
 が
(つまり契約は無効である)、本人はこれを追認することができる(
 法1131)。ここでの追認とは、法律効果を受けない(無効な)
 権代理行為を、最初から代理権があったと同様の効果を生じさせる
 (有効にする)ことである。取り消すことができる契約の場合の追認は、
 一応有効な契約を完全に有効(取り消すことができなくなる)に
するも
 のである。

  追認の拒絶はもともと無効なものを無効に確定することである。

  追認があると、原則として、契約の時にさかのぼって当該行為が
 有
効となる(民法116条本文)
  つまり、無権代理人Bが、Aの土地をAの代理人としてCに売却し
 た後、Aが追認した場合、AC間の契約はさかのぼって有効となる。
 ところが、Aが追認する前に当該土地をDに売却していたときは、C
 とDの関係はどうなるか。この場合には、先に登記をした者が優先
 す
る(民法177)
  この場合も、Aが無権代理を追認することによって、AC間の契約
 は有効となり、土地の所有権がA→C、A→Dに二重に譲渡された
 場
合と同じように考えるのである。

  ただし、ここで注意してほしいのは、民法の規定が、追認の遡及
 効
によって第三者の権利を害することができないと規定している点
 であ
る(民法116条ただし書)。この民法の条文通りに解釈すると、
 AC間
の契約が遡及することによって、追認前にAがDに当該土地
 を売却し
ていて、Dが所有権を取得しているので、Dの権利を害す
 ることがで
きないから、Dの登記の有無にかかわらず、Dが常に勝
 つのではない
かということである。しかし、対抗関係で処理すること
 が妥当である
設問の場合には、このただし書の規定は適用されな
 いと解されている。
  つまり、CD間は登記で決するのである。

  ということは、AがBの無権代理の追認の後にDに売却した場合
 で
も、同じようにCD間は登記で決することになる。

 不動産の共有者の一員が自己の持分を譲渡した場合における譲
受人以
外の他の共有者は民法177条の第三者該当する(判例)
 つまり、AB共有の土地について、Aからその持分の譲渡を受けた
は、持分取得の登記をしなければ、Bに対して持分の取得を対抗
できな
い。平成16年度【問3】肢3参照。

 不動産の物権変動は登記をしなければ第三者に対抗できないと
言った
が、不動産に関する物権でも、占有権、留置権、一般先取特
権、入会権
は登記をすることはできない。これらの権利は、登記が
なくても第三者
に対抗できるのである。
 また、登記が先の者が常に優先するということでもない。例えば、
動産に対する先取特権で、適法に登記された不動産保存の先取
特権や不
動産工事の先取特権は、それより前に登記された抵当権
にも優先する(
法339)
 だから、不動産に関する物権変動は常に登記をしなければ第三者
に対
抗できないとか、不動産に関する物権は登記の先の者が常に
優先すると
いうものではない。例外があるということを念頭において
ほしい。

 以上で、不動産物権変動と登記については終わりとする。