6 契約の取消しと第三者
 
① 契約の取消し前の第三者
   Aが自己所有土地についてBと売買契約を締結し、さらにBが当
  該土地についてCと売買契約をした後に、Aが契約を取り消した場
  合について、Aが善意の第三者に対抗できないのは、詐欺を理由
  に
取消した場合だけである(民法963)。制限行為能力を理由
  に取
り消した場合と強迫を理由に取消した場合には、善意の第三
  者の保
護規定がないので、Cが善意・無過失であっても、また登記
  をして
いても、AはCに対抗できる。無権利者から譲り受けても保護
  され
ないという原則である。

   なお、詐欺による取消しの場合、条文は「善意の第三者」に対抗
  できないとあるが、善意であれば足りるのか、さらに登記をも必要
  とするかについては、争いがある。判例もこの点は明らかではない。
  明確に登記をしなければ保護されないという判例はないようである。
  さらに、善意・無過失を要するとする学説もあるようだ。Cに登記
  必要だという説によると、AとCは、先に登記をしたものが優先
する
  という。
   この問題を出題する場合、ここらの争いがあることを念頭におい
  て、問題の作成をしてほしい。本番の試験では、Cが善意・無過失
  で、移転登記をしている事例を出して、このようなCにはAは対抗
  きないとしている。極めて適切な出題である。第三者Cが善意・

  過失で登記をしていれば、保護されることに問題がないからであ
る。
  模擬試験などでは、この辺の争いに無頓着な出し方をしている

  合があるので注意が必要である。

   ついでに言うが、通謀虚偽表示(心裡留保で無効な場合も)で無
  効な場合について、善意の第三者に対抗できないという規定があ
  る
が(民法942)、ここでいう第三者については、善意であれば
  足
り、登記も必要ではないというのが判例である。同じ文言であり
  な
がら、当事者間の利害関係を考慮して文言にないことを加えた
  りす
るのが法律の解釈である。

 ② 契約の取消し後の第三者
   AがBとの土地の売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後に、
  BがCに当該土地を売却した場合、AとCは、先に登記をした者が
  優先する(判例)。これは、詐欺による取消しに関する事例の判例
  で
あるが、詐欺による取消しに限らず、強迫や制限能力を理由に
  取り
消した場合でも、同様に考えるのが通説である。制限行為能
  力者に
ついては、取消権を与えて保護しているが、取消権を行使
  して契約
を取り消した以上、その後は、通常の取引関係での登記
  のルールに
従うべきだからである。
   土地が契約の取消しによりBからAに所有権が復帰するのと、B
  からCに所有権が移転するのは、B→A、B→Cと二重に譲渡され
  た場合と同様に考えるのである。
   BからAへの登記は通常抹消登記であるが、移転登記がなされ
  る
こともある。いずれの登記をするにも、ABの共同申請が必要で
  あ
るが、Bが協力しないときは、裁判所の確定判決がなければ登
  記は
できない。
   こういう場合には、Aは、仮登記を申請することができる。仮登
  も共同申請が原則であるが、Bが協力しないときは、裁判所で、
  「仮登記を命ずる処分の決定」を受ければ単独で仮登記の申請が
  で
きる。仮登記をしておけば順位が確保できる。仮登記を命ずる処
  分
の決定は、確定判決と異なり、簡易迅速に決定が出る。
   また、この土地はいま所有権を争っているということを公的に表
  (公示する)ために、処分禁止の仮処分を裁判所に申立てて登記

  することができる。これをすることによって、取消し後にCが現れるこ
  とを
防止できる。
   こういうことをしないから、AはCに負けてしまうのである。
  平成19年度【問6】肢1、平成22年度【問4】肢2など多数。