4 時効と登記
 ① 取引行為に限らず、時効によって物権を取得した場合でも、登記をし
  なければ、その後に物権を取得した第三者に対抗できない(判例)。元
  の所有者に対しては、登記なくして対抗できることはいうまでもない。
   例えば、Aの土地をBが時効取得したが(時効に要する期間が経過し
  たが)、登記をせずにおいている間に、Aが当該土地をCに譲渡した場
  合、Bは、登記なくしてCには当該土地の所有権(時効によって所有
  を取得した)を対抗できない。BとCは先に登記をした者が勝つ。
   土地の所有権がA→Bと移転した後に、さらに当該土地がA→Cに
  転した場合(二重譲渡)と同様に考えるのである
(判例)。平成19年度
  問6肢4参照。
 

 ここで思い出してほしい。無権利者から譲り受けた者は、無権利者であり、
この者に対しては登記なくして対抗できた。しかるに、上のAはBが時効取
得すると当該土地の所有権を失い、無権利者となるから、Cは無権利者か
取得した者として、Bは、登記なくしてCに対抗できるのではないかと。こ
のことは、二重譲渡においても、同じことである。AがBに売却すると、意
主義により当該土地の所有権はBに移転し、Aは無権利者となるから、C

無権利者からの取得者となるのではないかと。
 しかし、登記が対抗要件ということは、Bは登記をするまでは完全な所有
権を取得していない。Aも完全には所有権を失っていない。だから、Cは全
くの無権利者からの取得ではない。要するに、対抗要件というのは、相対
な所有権の帰属を認めているのである。
 それでは、3の③で見た、無権利者から譲り受けた者は、無権利者という
のとどこが違うのか。それは、そこでいう無権利者は、はじめから所有権が
なく、そもそも所有権の移転ができない者であり、所有権の相対的な帰属を
考える余地がないのである。
 以上は全くの理論的なものであり、二重譲渡の考え方を納得するための
であるにすぎない。

 ② 次に、Bの取得時効の完成前にAからCへ土地の売却が行われたが、
  Bがそのまま占有を続けて時効が完成した場合には、Bは登記をしな
  てもCに当該土地の所有権を対抗することができる
(判例)
   取得時効中断事由として、①請求、②差押え、仮差押え又は仮処分、
  ③承認のほか、④自然中断というものがある、それは、占有の継続が
  止された場合である(民法164条)。Cに売却されてCが登記をした場合
  でも、そ
れだけではBの占有継続に何の支障もなく、Bの取得時効は中
  断され
ないことに注意。
   この場合には、Bは、Cが登記をしようがしまいが、Cに対して登記なく
  して時効により所有権を取得したことを対抗できる。
   要するに、土地の所有権がAからCに移転し、CからBに移転した(Bの
  時効が完成したときはCの土地だった)場合と同様
(A→C
→B)、BとCは
  当事者の関係に立つからである
(判例)。平成22年度問4肢3、平成24
  年度問6肢1参照。