ぼくの古巣の財団には,設立から10数年間理事長を務めた老人がいた。
その老人は,数年前に引退して,現在は生まれ育った関西に隠棲している。
御年88,だいぶん体が弱っているとの話を聞いていた。

一昨日は,その財団の設立20周年の記念パーティーだった。
ぼくは,老人が来られるか案じつつ出掛けた。
パーティー会場を見回すと,やや中心から外れた位置に少し細くなった老人は座っていた。
ぼくが老人の隣に座ると,老人は「なんや,あんた引っ越したってな。なんでや。地震でか」と昔と変わらぬ大きな声でガンガンとまくし立てる。
ぼくは,本当にビックリした。
「凄い爺さんだ。やはり只者ではなかった。」

更に驚いたのは,関係者挨拶での老人の迫力である。
何人もの偉いさんの演説が続いた後の,トリが老人だった。
まず圧倒されたのは,その声量。
嗄れ声ではなく,昔のままのだみ声だ。
そして,話の中身。
たくさんのエピソードとヒューモアを交え,長くなく短くなく,みんなを大いに笑わせ,沸かせた。

この老人のパワーはどこから来るのだろうか。
理事長を務めている後半からは,少々老害といえなくもない行動が目立つようになったが,財団のスタッフの中で最も明晰な頭脳を持っているのは,ずっと老人だった。
一貫して,一番良く働くスタッフは,老人だった。

思うに,老人にパワーをもたらしているのは,(1)持って生まれた陽性な性格,(2)記憶力,そして(3)体力だ。
更に,財務状況だろう。
そんな老人の分析めいた話を昔の仲間達としていると,ある仲間が言った。
「肉食だよ,爺さんのパワーの源は。」
みんな頷いた。