2016年2月

処理を委託した廃棄物が転売された件

(株)トランスコウプ総研
代表取締役 上田晃輔
博士(商学)

処理を委託した廃棄物が横流しされた事件で大騒ぎである。カレーチェーンのココ壱番屋が,不具合の出た食材の処分を業者に委託したものの,業者は処分をせずに,あろうことか市場に横流ししていた。買い物をしていたココ壱番屋の関係者が,スーパーの売り場で自社専用の品物を偶然見つけてしまい,不正処理が明るみに出た。調べを進めると,複数の排出事業者から処理を委託された食品廃棄物を,廃棄物処理業者と食品業者が組んで多くの小売店に売りさばいていたことが分かり,事件の規模がどこまで拡大するのか全容の解明が待たれるところだと言う。

この事件に対して,巷には的外れな評論があふれている。曰く,産廃マニフェストを以てしても不正は防げなかった(もともとマニフェストに不法投棄防止の機能はない)。曰く,排出者と産廃処理業者は,互いの信頼関係に基づいて仕事を進めるしかない(説明になっていない。知りたいのは信頼とは何かだ)。曰く,ビーフカツ5万枚を捨てるとはもったいない;客に説明したうえで食べて貰えば良かった(顧客は美味しく安全なカレーを食べたいのであって,廃棄物を食べたいのではない)。こういった評論ばかりなのも,当然と言えば当然かも知れない。こういう事件が頻繁に起きている訳ではないので,メディアは適切な評論家を探せなかったのだろう。評論家も,こういう事件について調べて考える暇がなかったのだろう。

不正転売事件の本質的な原因は,廃棄物処理サービスという商品の構造にある。廃棄物処理は,排出事業者が業者にお金を払って買っている商品である。普通の商品ならば,お金は買い手から売り手に流れ,商品(サービス)は売り手から買い手に引き渡される。つまり,お金と商品(サービス)は引き換え関係にあり,受け取った商品の品質が払った額に見合うかを知ることができる。しかし,廃棄物処理サービスでは,お金を払って廃棄物を送り出す。買い手の手元を離れた廃棄物がどのような処理をされているのか,普通の方法では買い手は知ることができない。廃棄物処理サービスを買うということは,世話になった恩人にギフトを贈るのにネットで検索した初めての通販サイトの生鮮食料品を選択するようなものだ。お金を払ってギフトを送ったとして,無事届いたことまでは確認できても,届いた品がサンプル写真どおりの品質かどうかは確信できない。たとえ鮮度が落ちたものが届けられたとしても,相手はあなたに苦情を言ってくることはないだろう。産廃の委託処理とは,これに似たバクチ的な側面を持つのである。

良い処理業者を選ぶには,まずはブランドを見ることである。ブランドは,廃棄物処理業者が積み上げてきた実績である。評判の良い業者,業歴の永い業者,施設や技術者そして経営者を見て適切と判断できる業者がある。そうした実績に裏打ちされた廃棄物処理業者の名前こそが,ブランドである。ブランドを確立した業者が信頼できることは,経済的側面から処理業者の行動を予測することで理論的にも説明ができる。長期にわたり適正な処理を行ってきた業者にとって,適正な処理を堅実に続けることと,冒険的な不適正処理を行うことを比較すれば,前者の方が利益が大きいだろう。つまり,ブランド価値を守るためには,不法な処理はできないのである。そう考えれば,ブランドを確立している業者を探すことが,産廃処理業者選びの第一段階となる。インターネットでギフトを送るにも,普段からよく知っている百貨店のサイトならば,まずは安心できるだろうということと同じだ。

つぎに,処理業者を疑うことである。それは,決して処理業者に失礼なことではない。長期にわたり適正処理を行って行くには,排出事業者と処理業者の間の信頼関係が重要である。その信頼関係を構築するためには,排出事業者が処理業者を疑って監視する必要がある。ここで言う監視とは,お金を払って送り出した廃棄物の行方を最後まで確認することであり,継続取引のなかで毎回は無理にしても,機会を見て抜き打ちでも何でもあらゆる手段を使ってチェックすることである。ブランドを確立している処理業者は,むしろそのようなチェックを積極的に受け容れ応えてくれるはずである。なぜならば,善良な処理業者ほど,処理業界は悪質であるとの前提に立って他社との違いを明らかにする努力をしているものであり,他社との差別化の結果がブランドの確立なのである。排出事業者による処理業者の監視は,互いの信頼関係を構築するばかりでなく,その維持のための要素でもある。

最後に,リサイクルには気をつけなくてはならないことにも触れたい。廃棄物処理の目的は,公衆衛生と生活環境保全である。この目的を達成するための手段として,リサイクルがある。しかし,いつの頃からか手段と目的の取り違えがあり,今ではリサイクルが廃棄物処理の目的のようになっている観がある。単純処理していることをCSR報告書に書けないとか,当社はゼロエミッションだとか,自社の廃棄物が焼却や埋立で処分されていることを極端に嫌い,とにかくリサイクルしたことにしたい排出事業者がある。そうした要求に応えて,多くの産廃処理業者がリサイクルの看板を掲げるようになった。そして,リサイクルを標榜せず単純に焼却や埋立だけを行う処理業者は少数派になってしまった。このような状況において,リサイクルは処分に優先するという思い込みが生まれ,リサイクルならば安心だという油断が生じたように思えてならない。リサイクルは,処分と違って,そこで廃棄物処理の流れが完結する訳ではない。その先にも,回収物の再商品化や,再生資源の流通や消費といった工程がある。そうしたことにまで,厳しい監視が必要なのである。

久しぶりにココ壱のビーフカツカレーを食べた。何事もなかったような,美味いカレーである。
ビーフカツカレー