本日の日経新聞のWeb刊を眺めていたら、M&Aに関する記事で気になるものが二つあった。

一つは、トムソン・ロイターによる、今年1か月の世界のM&A発表額は25兆円で、昨年同期より69%増え、ITバブル期以来11年ぶりの規模だと言うものだ。債権や株式発行による企業の資金調達も昨年より2割多いペースで拡大中とのこと。本格的な景気回復への移行を確かに示すものであって欲しいと思う。

ただし、業種には変化が見られ、資源・エネルギーや素材関連が増えて36%を占めると言う。M&A自体が変化のための時間をお金で買うようなものだから、時代を敏感に反映し、先取りするものであることが如実に現れる。

もう一つの記事は、アサヒビールが本年7月に持株会社に移行するのを機に内外のM&Aを本格化させ、この2年間に4千億円を投じるというものである。この世界同時不況の中で比較的損害が軽く、円高(本質は他国通貨安であるが)の恩恵を活かせるはずの日本企業だが、海外展開に本腰を入れ始めた流れが本格的なものになっていって欲しいと願う。

しかし、このチャンスも長くは続かないかも知れない。残念ながら海外の企業の方がリスクを伴った意思決定のスピードが圧倒的に早い現状では、景気が回復するに従って競争相手が増え、M&Aの相対的条件も厳しくなるからだ。

機会自体はいつでもあるが、積極的なM&Aと防御的なM&Aでは面白さも成功確率も違う。20年程前に、M&Aを繰り返しているうちに社員の大多数が海外の外国人になってしまった業界大手の日本企業のために、海外の子会社の経営にあたる海外派遣者の養成プログラムを作成したことがある。短期間に素晴らしいグローバル企業になっていたのだが、やや内実が追いついていなかったと言える。

一方、少し前に規模は小さいが業界のパイオニア的企業に関するM&Aに関与したことがある。こちらは、戦略によってすばらしい相乗効果の発揮できる組み合わせだと思ったのだが、残念ながら出会いは良かったものの長引く不況で成立せずに終わってしまった。

第一印象が大事という意味では縁談と似たところのあるM&Aだが、限られた情報と時間を最大限有効に活用して内実を調べ上げ、統合戦略・計画に練り上げる力、そして何よりもトップの直観と決断力が必要だ。分かっていることなのだが、本当に実行するのは全く容易ではない。

日本人か外国人かを問わず、M&A後の統合マネジメントを成功させるための人材の養成・確保も多くの日本企業で待ったなしだ。時間の余裕はないが、今度こそ本気の日本企業の奮起を信じて応援したい。

ヴィブランド・コンサルティング
代表取締役 澤田康伸