IT(情報技術)は今や通信と融合してICT(情報通信技術)と呼ばれるように、その応用範囲や恩恵の度合いが益々大きくなっている。そんな時に、ITあるいはICTに投資しなければ生き残れない、効率を飛躍的に向上させるために是非投資したいと思っても、その投資額やリスクを考えると、経営者としては二の足を踏んでしまうことも少なくないのではないだろうか。

ソフトウェアのパッケージ/ERP化やクラウド・コンピューティング化が進み、以前に比べると投資額も下がってきてはいるが、絶対額として大きな投資となることには変わりなく、思うほど投資額が下がらなかったり、効果がすぐに出てこなかったりすることも良くある話である。

かつて大きなITプロジェクトのマネジメントを行っていてIT投資の効果も難しさも痛感したものだが、その時に同時に行ったある小さな試みが今も印象に残っている。それは在庫管理の改善を行うために流動数曲線をベースに創ったミニシステムであるが、私の指示を優秀なチームメンバーがエクセル上にマクロでプログラムしてくれて完成した。このプロジェクトではERPの導入を行うことになっていたので、その投資額に比べるとほとんどコストがかかっていないのだが、効果は結構あったと信じている。

経営コンサルタントとしてエクセルは様々な計算やシミュレーションに使い重宝しているのだが、2007年版でバージョンアップされた時には、スプレッドシートの大きさが飛躍的に大きくなったり、様々な機能が追加されたりと、その性能アップに驚いた。使いこなせていない便利な関数の多さにも改めて感心した次第である。

そんなわけで、それ以降は戦略計画策定、予実管理や管理会計など、クライアントのニーズや状況に即応しなければならない重要なテーマで、カスタマイズが必要だがコストや時間がかけられないというシステムは、積極的にエクセルで創ってしまうことにしている。コスト・パーフォマンスが抜群に良いだけではなく、身近なソフトウェアであるエクセルを使いこなすことで、クライアントが応用可能性の極めて高いある種のIT能力を獲得することができる点も見逃せない。

IT投資の効果を自分のものにするためには、同時に人への投資が欠かせない。バージョンアップを重ねてきて素晴らしい潜在的コスト・パーフォーマンスを体現しているエクセルの場合は、誰のコンピューターにも入っているのだが、それを使いこなす人への投資があまりにも足りないのではないかと考えている。

これは、他にも版を重ねる毎に機能拡張と改善が行われ、完成度が高まっている身近で安価なソフトウェアがいくつもあるが、それらに共通した現象ではないだろうか。それはベスト・プラクティスを限りなく小さなコストで再現し、埋め込むというITの特質に根ざした進化の一面であり、反対に人間は各人を最初からトレーニングしなければいけないという本質を見つめ直すきっかけを与えてくれるものに違いない。

ヴィブランド・コンサルティング
代表取締役 澤田康伸