花王は2006年に、化粧品事業強化のため約4,000億円を投資してカネボウ化粧品を買収した。しかし、計画通りの成果は出ていない。原因は明白である。2社のブランドを温存したため商品の差別化が不明瞭で、カバーする顧客層が重複しているからである。そこで、花王はブランド数を削減して、売れる商品に経営資源を集中させる。売れ行きが不振という理由で商品を切り捨てるのは、既存のお客様を大事にするという考えと矛盾するのではないかと思われる。しかし、売れない商品をいつまでも温存して売れる商品に力を入れないことこそ、お客さまを大事にするという考えに矛盾していると考えるべきである。

化粧品のマーケティングはイメージの勝負である。ターゲットを絞って、各ターゲットに合った魅力的な女性をイメージリーダーとして、お客様に商品力を訴求しないと競争に勝てない。化粧品の商品力とは、小さな容器に入っている液体ではない。女性に自分ならではの美しさをつくり、自分の最高の魅力を男性に見せる用意ができたという満足を感じさせる力が商品力である。テレビで見る魅力的な女性も魅惑的な形をした容器も、商品力を構成する重要な要素であり、どれ一つ欠けてもいけないのである。競争に勝つためには、潜在顧客と既存顧客に向けて、競合他社が販売する商品とはっきりと差別化できるイメージを、商品ごとに提供することが必要である。

花王とカネボウの連合軍がもたもたしている間に、資生堂は、国内市場の縮小を正しく予測して、5年前に重点ブランドを4分の一に絞っている。そして、中国市場を開拓して、売り上げを大きく増加させている。ブランドの刷新を怠らなかった資生堂と、重複したブランドの整理ができなかった花王の差が開くのは当然で、化粧品部門に限定すると、資生堂と花王の売り上げは、2.4対1になっている。これだけ差が開くと花王が資生堂を逆転することはまず不可能である。

花王のケースを見ていると、日産自動車とプリンス自動車の合併が思い出される。日産セドリックとプリンスグロリアは、外観が少し違うだけで、内容はまったく同じ車であった。それでも、2004年まであきれるほど長期間、この二つの車種は並行して販売されていた。その間に、トヨタがクラウンに経営資源を集中して、「いつかはクラウン」という有名なキャッチフレーズとともに、トヨタのフラッグシップとして日本を代表する車に育て上げている。そして、蓄積された技術がセルシオの開発につながっていく。ゴーン社長が、日産で重複するブランドを切り捨て、大幅なコスト削減に成功したという事実は、日産がいかに重複によって無駄を垂れ流していたかということの証明でもある。

事業構造の改革は、まったなしである。弊害が顕在化してから、取り組むのでは遅い。常に、お客様の声を聴き、市場の動向を正しく予測し、商品構成を必要に応じて作り変えることが必要不可欠である。 (Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)