2009年末にホテルが客室数で旅館を初めて追い抜いた。2009年末時点の数は、ホテルが798,070 で旅館が791,907であった。ホテルは都市観光人気やビジネス需要の回復で増え続けているが、旅館は団体旅行の減少などの逆風から廃業があとを絶たない。

旅館は基本的に、団体客を前提にした設計になっている。複数の宿泊客を一部屋に割り当て、大宴会場で団体客を食事でもてなすというスタイルになっている。社員旅行や修学旅行等の団体旅行は、旅館の収益の大きな柱である。そのため、宴会の準備等のサービスをする女性も多く抱える必要があり、人件費等の固定費も高い水準である。したがって、損益分岐点も高い。しかし、社員旅行は、景気に大きく左右されるし、修学旅行は海外に出かける時代になっている。しかも、少子化で生徒数は減少し続ける。このような変化に手を打てないうえに、海外からの観光客に対応できない旧態依然としたビジネスをしている旅館は、ますますビジネスの潮流から取り残されていく。

温泉地にある旅館なら、日本の団体客だけでなく海外からの団体客を取り込むことも可能であるが、都市部にある中小規模の旅館は、現状のままでは生き残りは難しい。事実、都市部にあるホテルは、少人数向けの客室をそなえて、個人客と団体客の両方を取り込んでいるため、着実にビジネスを伸ばしている。ここは発想を転換して、旅館は海外からの訪問客を取り込む工夫をすることが必要である。インターネットで情報を発信して日本の都市を見学し、日本の旅館が提供する日本風のもてなしを体験しながら、数日間、日本の都市に滞在したいと考える海外からの訪問者に焦点を合わせることである。また、日本で短期的に就労して、お金を稼ぎながら、世界を回りたいと考える人々も多い。そのような人々の、口コミによるネットワークは大きなマーケティングツールである。彼らに、ウィークリーで割引料金を提供することも可能である。

海外から来る人々には、温泉は魅力があっても、何日も連続して温泉宿に滞在する者は少ない。旅館業に必要なことは、いかに自社の強みを用いてホテルと差別化をするかである。これからは、世界、特にアジアからの観光客をいかに取り込むかに智恵をしぼる必要がある。宿泊料金だけでは、大手のチェーンホテルと戦って勝ち目はない。日本国内で考える以上に、世界の人々は日本に関心を持っているし、日本は魅力ある国である。対象とする市場を世界と考えると、世界の人々が要求するものは、千差万別である。中小の旅館といえども、機能一辺倒のホテルチェーンに勝てる道はある。 要は、市場をもっともっと細分化することが必要である。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)