企業向けの販促支援サービスで、メディアの注目を浴びたメル・ポスネットが経営破綻した。倍々ゲームで業績を伸ばしたが、寄り合い所帯であったため、絶頂期はほんのわずかであった。同社を一躍有名にしたのは、サンプル・ラボである。これは、会員に無料で、食品や雑貨、化粧品などの試供品を提供するものである。二つ目が、格安の液晶テレビの販売で、三つ目が家庭のポストにチラシを配布するポスティング事業である。この三つの事業をみると、まったくシナジー効果が存在しないうえに、サンプル・ラボと格安液晶テレビは、事業として成功させることは、まずもって不可能である。

サンプル・ラボの場合、そもそも計算が甘い。消費者は会員になった以上、できるだけ多くサンプルをもらって、会費を回収しようとする。そうすると、かなりの企業に参加してもらわないとこのビジネスモデルは成立しない。参加企業は、提供した無料の試供品と引き換えに、会員からアンケート結果を受け取るだけである。アンケート結果をもらうだけに、1週間20万円の展示スペース代を払って、無料の試供品を提供し続ける企業は少ない。無料の試供品をできるだけ数多くもらいたい消費者と、少ない投資で情報を集めようとする企業の思惑が一致することはない。

会員は、入会金300円と年会費1000円で、会員登録をする。会員はアンケートへの回答を条件に、好きなサンプルを1日5品まで持ち帰ることが可能となっている。仮に、5万人の会員を集めることができても、会費から得られる収入は、6,500万円に過ぎない。会員収入以外には、増える見込みの少ない参加企業から得られる展示スペースの使用料だけである。この収入で、店舗の賃貸料や人件費等の固定費を支払うというから、早晩破綻するのは目に見えている。結局、試供品の品揃えが貧弱なため、短期間で消費者から愛想を付かされてしまった。

格安液晶テレビは、成功するはずがない。商品というものは、競争が激化すると価格は否が応でも下がる。価格が下がると、企業力の勝負となり、アイデアだけで資本力のない企業は、たちまち土俵の外へ弾き飛ばされる。少し考えると、誰でも理解できる原理である。そして、同社の格安テレビがコンセントからの発火事故を起こす。そのため、受注が激減した。悪いことに、格安液晶テレビの製造を委託していた台湾メーカーへの代金支払いのため、他の二つの事業の売上金から、多額の前受け金を差し入れていた。駅前留学といううたい文句で、教師への給与の支払いもせず、事業拡大という夢に踊り狂った英会話学校によく似ている。

リスクを読む力は必要である。リスクを読むことなく、世の中は自分中心で回っているという天動説で踊り狂うと、ビジネスの世界でも政治の世界でも、結末は悲惨である。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.)