食事・交通費…手当、契約社員にも 同一労働同一賃金指針で  パート・派遣社員の改善は後回し

日経新聞

 契約社員が受け取れる手当が増え始めた。食事手当や交通費支給、慶弔休暇や子の看護休暇の有給化が主で、もらう側は歓迎する。昨年12月に政府が示した「同一労働同一賃金ガイドライン案」の効果と見る向きもあるが、パートタイマーや派遣社員の手当改善は後回し。非正規社員間に新たな壁ができてしまわないか。

 「正社員に食事補助があったことを知らなかった。私たち有期契約社員にも、正社員と同じ月3500円が出るのはとてもうれしい。自席で弁当ばかりでなく、外での昼食を増やしたり、仲間との交流に使ったりしたい」。そう話すのはNTTグループのドコモCS(東京・港)で後方事務を担当する笹島葉子さん(39)だ。

 笹島さんはドコモCSでの勤務が5年目。NTTグループは今年の春季労使交渉で、会社ごとに食券や現金支給などバラバラな形で支給していた食事補助を「サポート手当」にまとめ、4月から契約社員にも支給し始めた。
 一方、KDDIは今春、非正規社員について月例給を平均2519円引き上げると同時に、各種手当の処遇を引き上げた。正社員の総合職の賃金引き上げはゼロだった。

 同社によると、(1)これまで差があった時間外賃金の割増率を正社員と非正規で統一(2)子の看護休暇と介護休暇の有給化(3)裁判員に選ばれた際の公事休暇の有給化(4)妊娠中の女性がラッシュを避けるための通勤時間調整幅を正社員と同じ1時間半にする(5)年1回支給の一時金額を従来の5万円から10万円に引き上げる――などが内容だ。

 登用試験を受け、4月に非正規社員から正社員に転換したばかりの斉藤恵美さんは「割増率の統一は、非正規でも時間外労働が生じることが多いので、モチべーションが上がった」と話す。手当で最も歓迎しているのは看護休暇の有給化、次いで介護休暇の有給化、妊婦の通勤緩和策の順だ。「看護休暇が無給で、休むことをちゅうちょする人もいた。有給になったことで看護や介護される側の子や親にも安心してもらえる環境ができる」という。

 手当の拡充はサービス業や流通業でもじわりと広がる。労働組合のUAゼンセンによれば、今年の春季労使交渉の3月末段階の集計でボーナス支給範囲の拡大が4社、通勤手当拡大が1社あった。また契約社員への家族手当支給が2社、カフェテリアプランのポイント拡充が1社、パート社員への慶弔見舞金制度新設が1社、契約社員の年間休日増加が4社など、のべ29社で改善した。

 処遇改善の理由の一つは同一労働同一賃金ガイドライン案だ。手当と福利厚生関係の記述は実質14ページの同案のうち、半分を占める。賞与や役職手当は貢献度、職務内容に応じ、均衡を配慮した支給を求めたが、深夜・休日労働手当、通勤手当や出張旅費、食堂の使用、慶弔休暇については原則的に「同一の扱いをしなければならない」と書いた。

 KDDI労組の長谷川強政策局長は「ガイドライン案の影響はものすごくあった」と話す。もともと同社は家電量販店の販売職やコールセンターで、非正規従業員に依存する面が大きかった。1月にガイドライン案の生みの親の一人、水町勇一郎東京大学教授が講師のセミナーに、労組と会社側が一緒に参加。一定の共通認識ができたようだ。

 また、同一労働同一賃金をめぐる先行裁判例が微妙に影響した可能性がある。程度の差はあるが、非正規社員に一定の手当を支払わないことや、時間外賃金の割増率に差をつけることを労働契約法に照らして不合理とし、賠償を認めた事例があったからだ。

 非正規労働市場の動向も、原因として見逃せない。「タウンワーク」を発行するリクルートジョブズ(東京・中央)の宇佐川邦子ジョブズリサーチセンター長は「需給バランスが求職者優位になったことが大きな改善要因になったのは間違いない」と話す。地方の製造業では以前からあった住居の提供に加え、各種手当支給や10万円といった高額一時金が珍しくない。

 ただ、宇佐川さんによると、手当改善が働く意欲の向上に結びつくのはフルタイム契約社員であり、パート社員の多くは、正社員と同じ食堂や休憩室を使えることなど身近な福利厚生の平等に目がいくという。パート社員の処遇改善は多くの企業が手つかずだが、こうした意識の差を福利厚生と手当にどう反映させるかは今後の課題だ。

 ガイドライン案は根拠法が未整備で、現在は行政指導指針としての効力がない。しかし厚生労働省は4月末から関係法の改正案づくりを大わらわで進めている。法改正作業を横目でうかがいながら、企業は非正規社員の手当のあり方を模索している。(礒哲司)

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