以下において、登記が問題となるあらゆる問題について見ることにする。

1 不動産物権変動
  不動産(土地及びその定着物は、不動産とする(民法861))に関
 する物権(所有権、抵当権等)の得喪及び変更を、不動産物権変動とい
 う。
物権の設定及び移転は、意思表示のみによってその効力を生じると
 される
(民法176)。例えば、AとBが土地の売買契約を締結した場合、
 移転時
期を特約で定めればその特約通りであるが、特約がなければ、
 原則として
売買契約の締結と同時に、当該土地の所有権がAからBに
 移転するという
ことである(但し、他人物売買や未完成物件の場合は他
 人から所有権を取
得した時又は完成した時である)。これを物権変動の
 意思主義という。

2 物権変動の対抗要件
 ① 不動産に関する物権の得喪及び変更(物権変動)は、不動産登記法
  その
他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなけれ
  ば、第三
者に対抗できないとされる(民法177)
   これは、当事者間では、1で見たように、契約のみで物権変動は生じ
  る
が、第三者との関係では登記をしなければ、その第三者に物権変動
  を主張
(対抗)できないという意味である。

 ② 物権ではないが、不動産の賃借権も登記を対抗要件とする(民法605
  条)

 ③ 売買、抵当権の設定、契約の解除・取消しのような意思表示による物
  権
の変動のみならず、意思表示によらない時効による物権の変動、相
  続によ
る物権の変動にも登記が対抗要件となっていることは、後に述べ
  る通りで
ある。

 ④ 例えば、Aが土地をBに売却したが未だ登記をしない間に、Aが当該
  土
地をCにも売却した場合(二重譲渡)、Bは、Aには所有権の移転を対
  抗
(主張)できるが(当事者間であるから)、Cには登記をしていないので、
  所有権を対抗でないのである。
   この場合注意してほしいのは、Bは、自分に登記がなければ、Cに登
  記
がなくても、対抗できないということである。Cも登記をしていなければ、
  Bに対抗できない。登記のない者同士はお互いに対抗できないのである。
  一人が登記をすると、その者が完全に所有権を取得するから、他の者は
  完
全に所有権を失う。完全に所有権を失ったものは、Aの債務不履行(履
  行
不能)の責任を追及できる。平成24年度〔問8〕肢3参照。

 ⑤ 次に、Aが土地をBに売却したが未だ登記をしない間に、Aが当該土地
  をCに賃貸した場合について、先に見たように賃借権も登記が対抗要件と
  なっている。そこで、先にCが賃借権の登記をした場合、又は借地借家法
  の適用により、賃借地上の建物に登記をした場合には(借地借家法10
  1
)、Cは賃借権を第三者Bに対抗できる。その意味は、Cの賃借権がB
  の
所有権に優先するということである。つまり、BはCの賃借権の負担の
  つ
いた所有権を取得するということである。登記の先後によって権利の優
  先順位が決まるのである。
   先の二重譲渡のようにBが所有
権を完全に失うという意味ではない。所
  有権と所有権の場合、一方が成立
すれば他方は成立しない。しかし、所
  有権と賃借権は両立するので、賃借
権が対抗要件を満たした場合でも、
  所有権を否定するものではない。この
ことは、Cが土地の抵当権を取得し
  た場合でも同じことである。Cが先に
抵当権の登記をすると、Bは抵当権
  の負担のついた所有権を取得すること
になる。このような場合、BはAに
  対して担保責任の追及が問題となるが、
ここではこの問題についてはふ
  れないことにする。

   なお、Bは所有権の未登記のままでは、Cに対して土地の賃貸人の地位
  を主張できない(判例)。つまり、Bは当該土地の所有権の登記をしなけれ
  ば、Cに対して賃貸人の地位を主張して賃料の請求はできないことに注意。
  これは、AがCに土地を賃貸し、Cが土地上に建物を建て土地の賃借権に
  ついて対抗要件を満たしている状態で、Aが当該土地をBに譲渡した場合、
  Bは土地の登記がなければ、Cに賃貸人の地位を主張(対抗)できないと
  いうのと同じである。平成24年度〔問6〕肢2、平成16年度〔問3〕肢2参照。

   逆に、Aの土地がCに賃貸されたが、Cが対抗要件を満たす前に、Bに
  売却されBが所有権の登記をした場合にはどうなるか。この場合には、B
  は、Cの賃借権の負担のない所有権を取得する。つまり、BはCの賃借権
  を排除できる。既に当該土地にCが建物を築造してあれば、その撤去を請
  求できる。

 動産(不動産以外の物は、すべて動産とする(民法862))の物権変動
はどうなっているか。

 意思表示によって物権変動が生ずるのは、不動産と同じである(民法176
)。しかし、対抗要件は「引渡し」である。動産に関する物権の譲渡は、その
動産の引渡しがなければ、第三者に対抗できないとされる
(民法178)
 引渡しには、「現実の占有移転」、「占有改定」、「簡易の引渡し」、「指図に
よる占有移転」があるが、ここではその説明は省略する。

 動産物権には、所有権以外に占有権、留置権、質権及び先取特権がある
が、動産の上の先取特権は対抗要件を必要としないし、動産の占有権、留
置権、質権は別個に占有を要件とする規定があり、民法178条の「引渡し」
を必要とする物権変動は、所有権の譲渡及びこれと同視すべき所有権譲渡
契約の取消し・解除による所有権の復帰に限られる。