平成25年度管理業務主任者試験

【問 30 次の記述のうち、区分所有法及びマンション標準管理規約によ
れば、不適切なものはいくつあるか。
ア 管理組合が、大規模修繕工事の実施に向け、一級建築士事務所とコ
 ンサ
ルティング契約を締結する場合において、理事会が、同契約の締結
 を管理
組合の業務に関する重要事項であると判断したときは、契約の締
 結に関す
る決定を理事会の決議で行うことができる。
イ 管理組合に専門委員会を設置するには、理事会の決議で設置すること
 が
できる場合がある。
ウ 理事長が管理費等の滞納者に対して、管理組合を代表して管理費等
 の支
払請求訴訟を提起するには、マンション標準管理規約によれば、理
 事会の
決議で行うことができる。
エ 理事長が、外壁に穴を開けた区分所有者に対して、共同の利益に反
 する
ことを理由に区分所有法57条に基づき原状回復を請求するには、
 理事会
の決議で行うことができる。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ

×ア 不適切。管理組合の業務に関する重要事項については、総会の議
  決事
項とされている(標準管理規約4815)理事会の決議で行う
  ことが
できるというのは、不適切である。
〇イ 適切。理事会は、その責任と権限の範囲内において、専門委員会を
  設
置し、特定の課題を調査又は検討させることができる(標準管理規約
  55
1)
〇ウ 適切。理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事
  会
の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行する
  こ
とができる(標準管理規約603)
〇エ 適切。区分所有者が第6条第1項に規定する行為(建物の保存に有
  害
な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益
  に反す
る行為)をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、
  他の区
分所有者の全員又は管理組合法人は、行為の停止等(差止請
  求)を請求
できる。この差止請求は、裁判外(訴訟外)でもできる。この
  場合、各
区分所有者が請求できるのである。総会の決議や理事会の
  決議は不要で
ある。ただし、より慎重を期すために理事会の決議を得
  て行うことも、
あえて不適切とは言えないであろう。しかし、この問題が
  「原状回復を請求するには、理事会の決議を得な
ければできない」とあ
  れば、不適切である。
また、訴訟を提起する場合には、必ず総会(集会)
  の決議(普通決議)
が必要である(区分所有法572)。そして、法人
  ではない管理組合に
おいては、全員で訴訟追行をするのは面倒である
  から、管理者又は集会
において指定された区分所有者は、集会の決議
  により、訴訟の提起がで
きる(3)。あらかじめ規約で訴訟追行がで
  きるものを定めておくこ
とはできない。だから、規約で理事会の議決を経
  て訴訟の提起ができる
と規定しても、その規約は無効である。設問は、
  この点は明確にしてい
ないので、訴訟外と考えて解答すればよい。もし、
  原状回復の「訴訟」
を理事会の決議を経て行うことができるとあれば、
  明らかに不適切であ
る。

 試験の実施機関が、エについて、適切とも不適切ともいえるとして、1と
2を正解としている。
 出題者は、標準管理規約の第67条第3項第1号を根拠にしてこの問題
を出
題したのではないかと思われる。また、試験の実施機関が適切とも不
適切とも
言えるとしているのは、問題の肢のどこを根拠にしているのかが
不明である。
 どうも、出題者も、試験の実施機関も、区分所有法57条の問題と、標準
理規約6731号の問題を明確に区別せず、混同しているように思
われる。
標準管理規約は、673項で「区分所有者等がこの規約若しくは
使用細則等
に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者以外
の第三者が敷地
及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事
長は、理事会の決議
を経て、次の措置を講ずることができる。」として、同
1号において、「行為
の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の
請求に関し、管理組合を
代表して、訴訟その他法的措置を追行すること」
と規定している。
 標準管理規約では、差止めや現状回復のための「訴訟」についても、理
会の決議を経てできると規定している。これによると、エの肢は単純に
適切
となりそうである。出題者の意図もそこにあったのではないかと思わ
れる。
しかし、この規約の規定は、「規約・使用細則等に違反したときや不
法行
為を行ったときの措置」についての規定であり、設問のエで聞いてい
る区分所有法第
57条 でいう
区分所有法6条第1項に規定する行為(建
物の保存に有害な行 為その他
建物の管理又は使用に関し区分所有者
の共同の利益に反する 行為)に関す
るものではない。
 「規約違反等の行為に対する措置」につい ては、区分所有
57条は規
定していない。区分所有法に規定していない事項については、法律(区分
所有法等)に違反しない限り、管理組合が規約で定めることができる(区
分所有法30条1項)。
 標準管理規約のこの規定は、区分所有法57条とは別個の規約違反等
に関
する措置であり、両者は矛盾するものではない。区分所有法57条の
規定の適用範囲と標準管理規約のこの規定の適用範囲
を明確に区別し
て理解する必要がある。両者はその守備範囲が異なるのであ
る。
 したがって、平成22年度【問36】の肢2は「規約違反者に対し当該規約
違反行為の 差止めを求める訴訟の提起に関する承認又は不承認」につ
いては、理事会の決議のみで行うことができるものである。