下町には飲食店など老舗が多い傾向がありますが、長く商売を続けている店にはそれなりの理由があります。それは、単に好立地であることだけでなく、「はとバス」との提携でとにかく客を送り込んでもらえる仕組みを構築していたり、たゆまず広告宣伝・広報活動に力を入れていたりすることなどです。

ある老舗のお店では、天ぷらそばを注文すると丼から大きくはみ出した長いエビ天が乗っかってきます。初めて訪れた人は一様に驚き、後日かならず親しい人に話をします。それも、少し誇張して。

これが、口コミのスタートです。提供される商品・サービスに、人に語りたくなる何かがある。その「何か」は、うまくすればそのまま新聞・雑誌から取材してもらえる要素たりえるかもしれません。

企業のミッションにかかわるような大事でなくとも、口コミは発生します。しかし、企業理念と切り離してはウソ臭くなってしまうのも事実。たとえばデニーズは「ようこそ、デニーズへ」とお客様を迎えていました。

そこには後発だけれども米国ブランドならではの洗練とユニークさをめざす企業姿勢が映し出されています。当初、訪れた人たちはその出迎えに面映ゆい感情を抱きながらも、異質な体験として友人たちとの話題にしたものです。

お客が注文すると「よろこんで!」と応える、やる気茶屋という居酒屋もありました。同チェーンの経営者が、お客様に心から尽くさなければビジネスの成功はないという考えの持ち主であることは想像に難くありません。

また、ある居酒屋ではドリンク類の注文が出そろったところで店員が「乾杯の音頭をとらせていただいてよろしいでしょうか?」と笑顔で問いかけ、気の利いた言葉で乾杯に導き、その場をちょっと特別なものにしてくれます。

こうしたソフト的な仕掛けで口コミを促進するなら、特段の予算をかける必要もありません。必要なのは、お客様に強い印象を与えるおもてなしのミッションです。そう、それは待ち時間でさえも楽しませてくれるディズニーランドのような。

弓削徹オフィシャルサイトへのご訪問もお待ちしています。