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7 団地内の建物の建替えに関する決議
団地内に、ABC3棟の建物がある場合において、区分所有建物
であるA棟を建替えたいと思ったとき、その敷地をA棟の所有者だけ
で所有しているときは、その所有者だけの判断で建替えることがで
きる。つまり、その棟の区分所有者及び議決権の各5分の4以上の
多数による決議のみで足りる(区分所有法61条)。
しかし、その敷地が団地所有者の共有に属する場合(つまり団地
全体で共有している場合)は、その棟だけの問題ではなく、団地全
体の問題となる。そこで、このような場合について建替え決議の手
続きを定めたのが、法60条、70条である。
(1) 単一棟の建替え承認決議
① イ、一団地内にある数棟の建物(団地内建物)の全部又は一
部が専有部分のある建物であり、かつ、ロ、その団地内の特定
の建物(特定建物=建替えようとする建物)の所在する土地(こ
れに関する権利を含む。)が「団地建物所有者の共有」に属す
る場合においては、ハ、団地管理組合の集会において、議決
権(土地等の共有持分の割合で決まる)の4分の3以上の多数
による承認の決議(建替え承認決議)を得たときは、当該特定
建物の団地建物所有者は、建替え(当該特定建物を取り壊し、
かつ、当該土地又はこれと一体として管理若しくは使用をする
団地内の土地に新たに建物を建築すること)ができる(区分所
有法69条1項、2項)。
〇 この建替え承認決議は、議決権のみで足り、団地所有者の数は
考慮されない。
〇 この建替え承認決議は、「団地内に区分所有建物が1棟以上あ
ること」、「建替えようとする建物の敷地が団地建物所有者の共有
に属すること」、「団地管理組合の集会で議決権の4分の3以上の
決議があること」の3つの要件が必要。
② 以上は、団地管理組合の建替え承認決議の問題であり、その
前提に、
イ 建替えたいと思っている当該特定建物=建替えようとする建
物が区分所有建物である場合、その建替え決議(区分所有法61
条の5分の4の決議)又はその区分所有者の全員の同意がある
こと。
ロ 当該特定建物が区分所有建物以外の建物である場合 その所
有者の同意があることが必要である(区分所有法69条1項1号、
2号)。
〇 建替えようとする建物について、まず、①その建替えの要件を満
たしておいて、さらに、②団地管理組合の建替え承認決議が必要で
ある。
③ 建替え承認決議においては、当該特定建物(建替えの対象とな
っている建物)の団地建物所有者は、建替え承認決議においては、
いずれもこれに賛成する旨の議決権の行使をしたものとみなされ
る(区分所有法69条3項本文)。
棟の集会で建替えが決まった以上、建替え承認決議においては、
反対に回ることを認めないとしたわけである。
④ 建替え承認決議の集会の招集は、当該集会の会日より少なくと
も2月前に、議案の要領のほか、新たに建築する建物の設計の概
要をも示して発しなければならない(区分所有法69条4項本文)。
⑤ 建替え承認決議に係る建替えが当該特定建物以外の建物の建
替えに特別の影響を及ぼすべきときは、その影響を受ける建物の
区分所有者全員の議決権の4分の3以上の議決権を有する区分所
有者(建物が専有部分のある建物以外の建物である場合 その建
物の所有者)が当該建替え承認決議に賛成しているときに限り、当
該特定建物の建替えをすることができる(区分所有法69条5項)。
(2) 複数棟の一括建替え承認決議
① 建替えが検討されている特定建物が2以上ある場合、(1)で見
たように、単棟ごとの建替え承認決議に付すこともできるが、2以
上の特定建物の団地建物所有者は、各特定建物の団地建物所
有者の合意により、当該2以上の特定建物の建替えについて一括
して建替え承認決議に付することができる(区分所有法69条6項)。
② 当該特定建物が専有部分のある建物であるときは、当該特定建
物の建替えを会議の目的とする集会(区分所有法62条1項)におい
て、当該特定建物の区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多
数で、当該2以上の特定建物の建替えについて一括して建替え承
認決議に付する旨の決議をすることができる。この場合において、
その決議があったときは、当該特定建物の団地建物所有者(区分
所有者に限る。)の合意(一括建替え承認決議に付すための合意)
があつたものとみなされる(区分所有法69条7項)。
(2) 団地内の区分所有建物の一括建替え決議
団地内の区分所有建物をそれぞれ棟ごとの判断によって建替え
ることもできるが、団地内の区分所有建物を全部まとめて建替える
こともできる。
一斉に建替えるためには、以下の要件が必要である(区分所有
法70条)。
① イ、団地内建物の全部が専有部分のある建物(区分所有建物)
であること。
ロ、当該団地内建物の敷地(これに関する権利を含む)が当該
団地内建物の区分所有者の共有に属すること。
ハ、各棟の管理を団地管理組合で行う旨の団地管理規約が定
められていること。
〇 このハの要件は、先に述べた、4の団地規約の設定の特例②の第
二の規約の制定である(区分所有法68条1項2号)。
② 以上の要件を満たした上で、団地管理組合の集会で、団地内の
全区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で、当該団地
内建物につき一括してその全部を取り壊し、建物を建替える旨の
決議(一括建替え決議)をすることができる(区分所有法70条1項
本文)。
〇 建替えの承認決議と異なり、建替えそのものの決議であるので、
区分所有者及び議決権の各5分の4以上となっていいることに注意。
③ ただし、全体として5分の4以上の賛成があったとしても、各棟
ごとの区分所有者の意思を無視することはできないので、一括
建替え決議が成立するためには、当該集会において、当該各棟
ごとに、それぞれその区分所有者の3分の2以上の者であって議
決権の合計の3分の2以上の議決権を有するものがその一括建
替え決議に賛成した場合でなければならないとされている(区分
所有法70条1項ただし書)。
〇 これは、一括建替え決議と別個に、棟ごとの集会を開いて、3分
の2以上の決議が必要というものではないことを注意してほしい。
一括建替え決議が成立した場合、その決議における各棟ごとの投
票を集計して、それぞれ3分の2以上の賛成票があったかどうかを
審査するというものである。
〇 一括建替え決議の「5分の4」議決権は、団地における議決権と
して土地等の共有持分の割合による。しかし、棟ごとの議決権の3
の2という場合は、その棟の規約に別段の定めがない限り、その有
する専有部分の床面積の割合による(区分所有法38条、14条)。
④ 団地内建物の一括建替え決議においては、次の事項を定めな
ければならない(区分所有法70条3項)。
一 再建団地内敷地の一体的な利用についての計画の概要
二 新たに建築する建物(再建団地内建物)の設計の概要
三 団地内建物の全部の取壊し及び再建団地内建物の建築に
要する費用の概算額
四 前号に規定する費用の分担に関する事項
五 再建団地内建物の区分所有権の帰属に関する事項
⑤ 一括建替え決議の手続きに関しては、一棟の区分所有建物の
建替えに関する「招集手続」、「売渡し請求」等多くの規定が準用
されている。
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〇 団地共用部分とすることができるのは、「建物」であり、建物ではない
施設は団地共用部分とすることができない。また、団地共用部分とする
ことができるのは、「団地所有者全員の共有に属する建物」でなければ
ならない。団地所有者の一部の者の共有に属する建物は、団地共用部
分とすることはできない。つまり、団地においては、一部団地共用部分
は認められない。
② 団地規約で団地共用部分と定めた場合、その旨の登記をしなけれ
ば、これをもって第三者に対抗することができない(区分所有法67条
1項ただし書)。
③ 団地共用部分の持分は、規約に別段の定めがない限り、建物(戸
建ての場合)又は専有部分(マンションの場合)の床面積の割合によ
る(区分所有法67条3項、14条1項、4項)。
④ 一団地内の数棟の建物の全部を所有する者は、公正証書により、
前項の規約を設定することができる。つまり、団地の分譲業者が分
譲前に団地共用部分の定めを公正証書により作成できるとした。
4 団地規約の設定の特例
① 団地内の土地又は附属施設が団地建物所有者の共有に属す
る場合、共有者全員で、その団地内の土地、附属施設及び専有
部分のある建物の管理を行うための団体を構成する(区分所有
法65条)。そして、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置く
ことができる(区分所有法65条による準用)。
一般的に団地の規約の設定、変更又は廃止は、団地建物所有
者及び議決権の各4分の3以上の多数による団地の集会の決が
必要である。
② 区分所有法68条1項は、「団地建物所有者の一部に属する物に
ついて」、団地で管理できる場合について定めた。本来なら、これを
共有する者(棟)単位で管理すべきであるが、一定の手続きを経て
団地規約を定めて、団地で管理できることにしたわけである。
第一に、当該団地内の一部の建物の所有者(専有部分のある建
物にあっては、区分所有者)の共有に属する場合における当該土
地又は附属施設(専有部分のある建物以外の建物の所有者のみ
の共有に属するものを除く。)(区分所有法68条1項1号)。例えば、
10棟からなる団地で、5棟ずつに分けて敷地が区分されており、そ
の間に10棟全員の共有に属する通路がある場合、その通路を核
として10棟全員の団地が成立する。このような場合、団地規約で
敷地全体を管理できることになる。駐車施設等が、一部の団地所
有者の共有に属している場合等も同じように団地規約で敷地全体
を管理できることになる。
ただし、土地又は附属施設が戸建て建物の所有者のみの共有に
属している場合は除かれるとされている。次の第二で述べるように、
戸建て建物については、団地管理組合で管理できないので、戸建
て建物の共有に属する土地(敷地)や附属施設についても団地の
管理から除外したのである。
第二に、当該団地内の専有部分のある建物である(区分所有法
68条1項2号)。
これは区分所有建物であり、本来なら、各棟の区分所有者がこ
れを管理すべきものであることは、言うまでもない。しかし、団地に
おいては、団地全体で統一的な管理をすることが必要であり、合
理的である場合があるので、このような規約の制定を定めたので
ある。
なお、戸建て建物は入っていないから、戸建て建物を団地の管
理とすることはできない。
〇 マンションの管理の適正化の推進に関する法律は、マンションの
適正な管理をするために定められた。そして、マンションの定義とし
て、①「二以上の区分所有者が存する建物で人の居住の用に供す
る専有部分」のあるもの(区分建物)並びにその②敷地及び③附属
施設をマンションとしている。
さらに、団地の場合、団地建物所有者(区分建物と戸建て建物)
の共有に属する①土地又は②附属施設もマンションであるが、団
地内の「戸建て建物」はマンションではないとされている(同法2条
1号イ、ロ)。
これは、区分所有法上、団地内の戸建て建物については、団地
の管理の目的とすることができないとされているから(つまり、その
管理はあくまで、戸建て建物の所有者が行うから)、適正化法にお
いても、マンションの定義から外しているのである。
③ 特例の団地規約設定手続
一般的な規約設定決議があった上で(2の④、4の①参照)、
以下の要件が必要である。
第一の土地又は附属施設にあっては当該土地の全部又は
附属施設の全部につきそれぞれ共有者の4分の3以上でその
持分の4分の3以上を有するものの同意が必要である。つまり、
団地全体集会の決議で、4分の3以上の決議があったとしても、
さらに、附属施設を共有する共有者・持分の4分の3以上の賛
成があったかどうかを調べる必要があるわけである。
第二の場合、その全部(全ての棟)につきそれぞれ集会にお
ける区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による決
議があることを要する。1棟でも決議がなければ、団地管理組
合で棟を管理することはできない。
なお、建物の一部共用部分に関する事項で区分所有者全員
の利害に関係しないものについては、一部共用部分を共用す
べき区分所有者の4分の1を超える者又はその議決権の4分
の1を超える議決権を有する者が反対したときは、議決権は成
立しない(区分所有法68条2項)。
第二の場合、この全ての棟の決議と団地管理規約の制定決
議があって、はじめて効力が生ずる。
〇 一団地内では、団地単位で管理するか、棟単位で管理するかは、
どちらかを決定すべきであって、ある部分は棟単位で管理、ある部
分は団地単位で管理、と選択することは認められないと解されてい
る。例えば、第一の場合、附属施設の一部だけを管理するとか、第
二の場合、数棟の区分建物のうち1棟だけを管理するとかはできな
い。
〇 このような手続きで団地規約を定めると、それ以外に棟管理組
合の規約は不要である。もちろん、棟管理組合は存続し、棟管理
組合ごとに決すべき事項はある。例えば、義務違反者に対する措
置や建物が滅失した場合の復旧などは棟単位の決議で決する。
しかし、これらに関する棟総会についても、団地管理組合で定めれ
ば、一々棟管理組合の規約で定める必要はない。
標準管理規約の団地型においては、第8章に「棟総会」の項を設
けている。
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〇 団地建物所有者というのは、1棟の区分所有建物における「区分
所有者」に代わる用語であり、団地特有の用語であるので、その意味
をしっかりと理解すること。土地等を共有する建物(戸建てと区分所
有建物)の所有者である。
団地が成立するためには、①一団地内に数棟の建物があること、
②その団地内の土地又は附属施設がそれらの建物所有者の共有に
属することが必要である。
① 数棟の建物は、区分所有建物に限らず戸建て建物でもよい。し
たがって、戸建て建物のみが数棟ある場合に、①戸建て建物の所有
者全員で土地又は附属施設を共有する場合には、その土地又は附
属施設を管理するため、団地管理組合が成立する。その他、②戸建
てと区分所有建物、③区分所有建物のみの団地が成立する。
〇 団地内に区分所有建物が存在する場合、団地管理組合と棟ごと
の管理組合が併存することになることを理解すること。また、土地や
附属施設の共有状態によっては、複数の団地管理組合が重畳的に
成立することに注意すること。
後に述べるように、①第三節「敷地利用権」、②第七節「義務違反
者に対する措置」、③第八節「復旧・建替え」の規定は団地に適用
されないので、これらは棟ごとに処理されることになるが、建替えに
ついては、団地について特別の規定が置かれている。
② 区分所有法は、第二章として「団地」について規定しているが、
第一章の「建物の区分所有」に関する多くの規定を準用するとし
ている。建物の区分所有「等」に関する法律は、区分所有建物だ
けについて規定しているわけではないのである。
2 建物の区分所有に関する規定の準用(区分所有法66条)
① 先取特権・特定承継人の責任
② 団地管理物の変更・管理
土地等(共有の土地と附属施設のこと)の共有物や団地規約に
よって団地の管理目的物とされた物(この団地規約によって団地
の管理目的物にされた物(区分所有法68条1項1号、2号)につい
ては、後に詳しく述べる。)変更・管理に関する決議要件、保存行
為に関しては共有者が単独でできることなどが準用されている。
③ 団地の管理者
団地建物所有者は、団地の管理者を選任・解任できる。団地の
管理者の権限は、団地の管理目的物を保存し、集会の決議を実
行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
団地の管理者は、その職務関し団地建物所有者を代理する。ま
た、団地建物所有者のため原告・被告となる。
管理所有の規定(区分所有法27条)の準用はない。
④ 団地の規約
団地の管理目的物に関する管理又は使用に関する団地建物所
有者相互間の事項は、規約で定めることができる。団地の規約の
設定、変更又は廃止は、団地建物所有者及び議決権の各4分の
3以上の多数による団地の集会の決が必要である。
ただし、後にも述べるが、68条1項各号に掲げる物について規
約を設定するには、これらの共有者の特別多数の同意等が必要
である。
規約の保管及び閲覧に関する規定も準用されている。
⑤ 団地の集会
団地の集会は、毎年1回、団地の管理者(団地管理者)が招集す
る。
各団地建物所有者の議決権は、土地等(これらに関する権利を含
む)の持分の割合による。ここでいう土地等というのは、全員の共有
に係る土地と附属施設である。
集会の招集・通知、議事、議事録、書面決議等も準用されている。
⑥ 団地の規約や集会の決議の効力は、団地建物所有者の特定承
継人対してもその効力を生ずる。
⑦ 団地管理組合法人も認められる。
〇 団地には建物区分所有の規定が準用されているが、建物区分所
有の規定は、多く読み替えたうえで準用されている場合が多い。団地
は、戸建ての建物もあり、また、団地の性格から、用語を読み替える
必要がある。団地の規定が分かりにくいというのは、これも一因であ
る。
〇 団地においては、「区分所有者」に代わって、「団地建物所有者」
となっている。区分所有者は1棟の建物の場合についてのみ適用さ
れるものであり、団地では、団地建物所有者という。団地建物所有
者とは、先にも見たが、土地等を共有する建物(戸建てと区分所有
建物)の所有者のことである。
〇 集会の決議は、区分所有者及び議決権の各4分の3、過半数な
どとなっているが、団地の集会においては、「団地建物所有者」及び
議決権となる。ここでの議決権とは、2の⑤で見た、土地等(共有の
土地と附属施設のこと。これらに関する権利を含む)の持分の割合
により決まる。
追認があると、原則として、契約の時にさかのぼって当該行為が
有効となる(民法116条本文)。
つまり、無権代理人Bが、Aの土地をAの代理人としてCに売却し
た後、Aが追認した場合、AC間の契約はさかのぼって有効となる。
ところが、Aが追認する前に当該土地をDに売却していたときは、C
とDの関係はどうなるか。この場合には、先に登記をした者が優先
する(民法177条)。
この場合も、Aが無権代理を追認することによって、AC間の契約
は有効となり、土地の所有権がA→C、A→Dに二重に譲渡された
場合と同じように考えるのである。
ただし、ここで注意してほしいのは、民法の規定が、追認の遡及
効によって第三者の権利を害することができないと規定している点
である(民法116条ただし書)。この民法の条文通りに解釈すると、
AC間の契約が遡及することによって、追認前にAがDに当該土地
を売却していて、Dが所有権を取得しているので、Dの権利を害す
ることができないから、Dの登記の有無にかかわらず、Dが常に勝
つのではないかということである。しかし、対抗関係で処理すること
が妥当である設問の場合には、このただし書の規定は適用されな
いと解されている。
つまり、CD間は登記で決するのである。
ということは、AがBの無権代理の追認の後にDに売却した場合
でも、同じようにCD間は登記で決することになる。
不動産の共有者の一員が自己の持分を譲渡した場合における譲
受人以外の他の共有者は民法177条の第三者該当する(判例)。
つまり、AB共有の土地について、Aからその持分の譲渡を受けた
Cは、持分取得の登記をしなければ、Bに対して持分の取得を対抗
できない。平成16年度【問3】肢3参照。
不動産の物権変動は登記をしなければ第三者に対抗できないと
言ったが、不動産に関する物権でも、占有権、留置権、一般先取特
権、入会権は登記をすることはできない。これらの権利は、登記が
なくても第三者に対抗できるのである。
また、登記が先の者が常に優先するということでもない。例えば、
不動産に対する先取特権で、適法に登記された不動産保存の先取
特権や不動産工事の先取特権は、それより前に登記された抵当権
にも優先する(民法339条)。
だから、不動産に関する物権変動は常に登記をしなければ第三者
に対抗できないとか、不動産に関する物権は登記の先の者が常に
優先するというものではない。例外があるということを念頭において
ほしい。
以上で、不動産物権変動と登記については終わりとする。
判例⇒ 通謀虚偽表示とは言えないが、Aが建物を新築したが、Bに無
断でB名義の所有権保存登記をしていたところ、Bが勝手に自己
の所有物としてCに売却した場合、Cが善意であれば、通謀虚偽
表示の規定(民法94条2項)を類推適用して、Aは、Cに当該建物
の所有権を対抗できないとした判例がある。
AB間には通謀や虚偽の売買もないが、虚偽の外形を作ったA
よりも、これを信頼したCを保護すべきだからである。
判例⇒ Aの所有地をBが勝手に自己名義の登記をしているのをAが
知ったが、すぐに登記を回復することなく放置していたところ、善
意のCがBから当該土地を買受けた場合、民法94条2項を類推
適用して、Aは、Cに当該土地の所有権を対抗できないとした判
例がある。
この事例では、Aが積極的に虚偽の事実を作り上げているわ
けではないが、自分の土地について登記が第三者名義になって
いることを知りながらこれを放置することは、自ら虚偽の事実を
作り上げていることと変わりがないと判断されたのである。
以上と異なり、A所有土地・建物について、Bが勝手に自己の所有物
として登記をして、Aが知らない間に、BがCに売却した場合、Cが善意
であっても、Aは当該土地・建物の所有権をCに対抗できる。この場合、
Aに何らの帰責事由がないからである。不動産については単に登記を
信頼しただけでCが保護されるものではないことに注意すること。
ちなみに、動産については、相手方の占有を信頼して取引に入った
場合、動産の所有権を取得できるとする、即時取得(善意取得)の制度
があるが(民法192条)、この点については、最初の方でみたように、
不動産の登記については、公信力がなく、動産の占有については公信
力が認められているとして述べている。
② AB間のA所有土地の売買契約が通謀虚偽表示である場合、C
が善意でBから当該土地を買受けたときは、Cが善意であれば、C
は登記をしなくても、Aに所有権を対抗できると言ったが、Cは、A
から当該土地を買受けたDに対しては、登記をしなければ対抗で
きない(判例)ことに注意すること。もちろん、Dも登記をしなければ、
善意のCには対抗できない。つまり、この場合、A所有土地がA→
B→Cと譲渡され(AB間の無効を善意のCに対抗できないという
ことは、Cからみれば、AB間は有効となるという意味である。)、
さらにA→Dに二重に譲渡された場合と同様に考えて、CとDは対
抗関係に立つと見るのである(民法177条)。平成12年度【問4】
肢4。
1 Aが、Bに土地を譲渡して登記を移転した後、詐欺を理由に売買契
約を取り消した場合で、Aの取消し後に、BがCにその土地を譲渡して
登記を移転したとき、Aは、登記なしにCに対して土地の所有権を主
張できる。
2 DとEが土地を共同相続した場合で、遺産分割前にDがその土地を
自己の単独所有であるとしてD単独名義で登記し、Fに譲渡して登記
を移転したとき、Eは、登記なしにFに対して自己の相続分を主張でき
る。
3 GがHに土地を譲渡した場合で、Hに登記を移転する前に、Gが死
亡し、Iがその土地の特定遺贈を受け、登記の移転も受けたとき、H
は、登記なしにIに対して土地の所有権を主張できる。
4 Jが、K所有の土地を占有し取得時効期間を経過した場合で、時効
の完成後に、Kがその土地をLに譲渡して登記を移転したとき、Jは、
登記なしにLに対して当該時効による土地の取得を主張できる。